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01号 自然体で生きるためのメソッド(1)

はじめに


「人間とは、自分に絶えず呼びかける天地万物の受信アンテナである」と述べたフランスの耳鼻咽喉科医がいます。その名はアルフレッド・トマティス博士(1920〜2001)。早産の仮死状態で生まれ、いったんはかごに捨てられてしまったのを、その後拾い上げられて蘇生したという誕生秘話を持ちます。「この死に瀕した誕生体験が自分の仕事の方向性を決定づけた」と自伝で述べているように、彼は単に耳鼻科医にとどまらず、耳と声と心の探求に一生を捧げました。
耳は胎生期に早くに完成し、そして死に際しては一番最後にその機能を閉じると言われています。これに象徴されるように、耳は音を受信するだけでなく、身体のバランスを司どったり、脳へエネルギーを送るダイナモの機能も持ち、一般に知られている以上に人間の営みを下支えしている大事な器官です。
トマティス博士は、この「耳」そして「聴く」ことの大切さを説き、ついには、耳の再教育トレーニングと、「聴くこと」を主体とした発声トレーニングを開発しました。つまりは「受信」と「発信」のトレーニングです。これがトマティスメソッドです。
このメソッドに関わるうちに、これは、「聴いて、感じて、響き合うというコミュニケーションの原点」を、私たちにメソッドであると、より深く感じるようになりました。
私たちのコミュニケーションは、いまやメールが主流になりました。便利ではあるけれど、その一方で人と相対することが苦手な社会になりつつあります。相対したときに、目が語るもの、声が語るもの、表情が語るもの・・・。赤ちゃんとお母さんがお互い全身で相手を知ろうとする、聴こうとする、あの感覚を私たちはもう一度、取り戻す時期にあるような気がしてなりません。
私たちは、昨今、身体を置き去りにしてきているようにも思います。
博士の言葉に、「頭と心と体を一致させる」というのがあります。私たちは、とかく思考が先行し頭でっかちになりがちです。もしくは、心でっかち、体でっかちな人もいるかもしれません。これらが、どれも均等に使われると、無駄な動きがなくなり、結果自分に対して優しい生き方になります。それは同時に無理することなく、自分の能力を最大限に引き出すことにもつながります。
博士はそれを、聴く(受信)、声を出す(発信)という日常あたりまえに行っている行為を見直すことで、見事に誘導するメソッドを作りました。
「自分の耳を正しく使って、自分の声を聴くこと」が、自分に優しい生き方にもつながるなんて本当?と思われるかもしれません。でも、少しだけ自分に対しての意識を変えれば、誰にでもできることなのです。
このユニークな視点を少しでもご紹介できたらと、この冊子の発行を思い立ちました。
トマティス博士より直接指導を受け、トマティス発声コース(CAV)の認定トレーナーとして、日本において多くの指導を行っている日原美智子氏へのインタービューを中心にお届けしてまいります。

*この小冊子を制作している「耳と聲の本プロジェクトチーム」のメンバーは、「トマティスメソッド」を提供しているスタッフとその志に共感する仲間たちです。


アルフレッド・トマティス博士 (1920〜2001)
1920年フランスのニースに生れる。
パリ大学医学部耳鼻咽喉科卒業。 聴覚、心理学、音声学を専門とする。
1947年に聴覚と発声の相関関係を明らかにした理論を確立。 1957年、この理論はトマティス効果としてフランス科学アカデミーおよびパリの医学アカデミーに登録され、聴覚およびコミュニケーション障害のリハビリ技術の基礎となった。
博士が開発した聴覚・発声トレーニング「トマティスメソッド」は、現在ルクセンブルクに本部を置き、世界約75ヶ国で実施されている。

トマティスメソッドとは、自然体で生きるためのメソッドです。
01号では、トマティスメソッド発声コース(CAV)認定トレーナーの日原美智子氏が、トマティスメソッドを学び身につけることによって、自然体で日々をハッピーに過ごせるようになっていく過程が語られています。

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