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暗闇の世界に住む刺繍たちの物語

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ムムリク舎です。 ひとつひとつの刺繍ブローチが持つ、物語をまとめました。 手のひらにおさまる絵本の様に読んでいただけたら嬉しいです。
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#妖怪

この世で最も美しいゴーストの話

ある屋敷で夜の見回りをしている 2人の使用人がおりました。 屋敷の地下で白い幽霊が出るというウワサを聞き その夜、行ってみることにしたのです。 紅い絨毯の上をランプで照らしながら 進んでいくとフワリと白い花のようなものが 横切ったのです。 目を凝らすと、窓から入ってくる月明かりの中 美しい真っ白な傘がくるりくるりと 踊っているのです。 奇妙なことに傘には真っすぐに伸びた 美しいバレリーナのような足が 生

ある屋敷の侍女の記録

深夜に目を覚ました私は、中庭に洗濯物が 干しっぱなしになっていることに気づいた。 奥様に気づかれないよう、 足音をたてずにそっと中庭へ出る。 見ると、ロープにかけられたベビードレスの傍に 大きな鳥が一羽とまっていた。 その不気味さはこの世のものとは 思えないものであった。 大きな紅い目玉と目が合った。 「この家に子供がいるな・・・よこせ」 喋った。驚き、動けないでいると 「いつか奪いに来るからな・・・」 と言い飛び立った。 家主へそのことを伝えると 数日のうちにこの

ある牛飼いの記録

その夜、私たち夫婦は屋敷で飼われている 牝牛のお産のため 一晩、牛小屋で寝ずに付き添っていた。 夜が明けそうな時間についに牝牛は 一匹の仔牛を産んだ。 私たちは、疲労の中にも喜びを感じ 達成感を覚えた。 かわいい顔を見ようと妻が仔牛の顔を のぞき込むと突然、悲鳴を上げた。 仔牛はゆっくりと立ち上がった。 その顔はのっぺりとした人間の顔であった。 愕然としていると、仔牛は突然しゃべり出した。 「数日後この村は大火事で全滅するであろう。」 本当に短い予言であった。 その