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暗闇の世界に住む刺繍たちの物語

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ムムリク舎です。 ひとつひとつの刺繍ブローチが持つ、物語をまとめました。 手のひらにおさまる絵本の様に読んでいただけたら嬉しいです。
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#ホラー

裏庭の窓から

私が子供の頃、裏庭に面した薄暗い部屋に ひとりの少女が閉じ込められていた。 少女はいつも窓に額をくっつけて 裏庭で遊ぶ私の様子を眺めていたように思う。 その部屋の扉に近づくことは父親にきつく 禁止されていたので 私はこっそりと、薄くあいた窓から 少女がか細い声で歌う きれいな歌を聞いたり、 キラキラ光る包み紙にくるまれた 上等なキャンディーを窓の隙間から 少女へあげたりしていた。 ある夜、父と母がひどいケンカをした翌日 あの部屋の扉が開いており、 母と少女の首だけが姿

ある日の通学路で

子供の頃、学校への通学路は薄暗い森の中だった。 不気味な程、背の高いモミの木たちが怖くて 友達と急いで走り抜けた。 ある日、森にオバケが出るという噂がたった。 紫色のドレスを着て森を彷徨う女で、 その顔は紫の花の形をしているという。 私と友達は更に怖くなり、全速力で森を駆け抜けた。 その時、私は木の根につまづいて転んでしまった。 「早く!」叫ぶ友達を見上げると、私の目の端に 紫色のオーガンジーの裾がヒラリと舞った。 はっと、そちらに顔を向けるともう誰も居なかった。

ある屋敷の侍女の記録

深夜に目を覚ました私は、中庭に洗濯物が 干しっぱなしになっていることに気づいた。 奥様に気づかれないよう、 足音をたてずにそっと中庭へ出る。 見ると、ロープにかけられたベビードレスの傍に 大きな鳥が一羽とまっていた。 その不気味さはこの世のものとは 思えないものであった。 大きな紅い目玉と目が合った。 「この家に子供がいるな・・・よこせ」 喋った。驚き、動けないでいると 「いつか奪いに来るからな・・・」 と言い飛び立った。 家主へそのことを伝えると 数日のうちにこの

ある牛飼いの記録

その夜、私たち夫婦は屋敷で飼われている 牝牛のお産のため 一晩、牛小屋で寝ずに付き添っていた。 夜が明けそうな時間についに牝牛は 一匹の仔牛を産んだ。 私たちは、疲労の中にも喜びを感じ 達成感を覚えた。 かわいい顔を見ようと妻が仔牛の顔を のぞき込むと突然、悲鳴を上げた。 仔牛はゆっくりと立ち上がった。 その顔はのっぺりとした人間の顔であった。 愕然としていると、仔牛は突然しゃべり出した。 「数日後この村は大火事で全滅するであろう。」 本当に短い予言であった。 その

ユディト

今、目を閉じてイメージする。 シーツに身を埋めて寝息を立てる男の首にナイフを突きつける・・・。 力を入れる。侍女の太い腕が怯える私の腕を上から押さえつける。 そして・・・ 「旧約聖書 ユディト記より」