不甲斐ないや

忘れものがなくならない。
ちびまる子ちゃん並みのおっちょこちょいさなら笑い話にもできるけど。

比じゃなく、3秒の記憶すらもたない致死レベル。

だけど、この先の不安を憂いたい訳ではなく、むしろ建設的なお話です。

その忘れっぽさが生んだ奇跡のお話。ほぼミラクル。



ここ数ヶ月、いや、１年近く朝ごはんにしっくりきていなかった。

忙しい毎日でも手軽にサクッと、でもしっかり食べようと思える最適な朝ごはんメニューを模索していた。

実家を離れ一人暮らしをするようになってからは、基本的に朝食抜き。

時間を持て余しているはずの大学時代だというのにこの体たらく。

社会人になってからはより一層、食のことは後回しで、手軽さの代表であるパンが不動の１位だった。

理想を言えば、ご飯とお味噌汁と焼き魚の定番和食がいい。

でもそれはやっぱり理想で、たまに実家に帰る時と旅館以外では滅多にお目にかかれない、尊いメニュー。

巷の健康ブーム？でグルテンフリーの流れに流されるまま、パンを避けるようになり、だからといって朝からお米も炊くのも気が重い。


ヨーグルトにフルーツ、シリアル、スムージー、、、全然エネルギー足りないよね。
秒で消費だよね。


そんな訳でずっと自分にぴったりな朝ごはんが決まらない状態が続いていた。

探しものって探すと見つからないって本当なのね。



とある日、チーズケーキを作りたくなってスーパーに寄って帰った。
食べたくなったからという理由ではなく、作りたくなったからというのは一旦置いておく。



きちんと材料を調べずに買って帰ったので、当然足りないものがあって作れない。


方向音痴のくせに、地図を調べずに自分の勘だけを頼りに進んで、結局真逆の位置にいたりするのと似てる。

根拠のない自分の実力をなぜか時折試したくなる私の悪い癖だ。
かっこよく言ってるけどただの無鉄砲。

メインのクリームチーズがたぶん50gくらい足りない。
そもそも計りもないけれど。
今ある分量で作った方が早いのだろうが、考える前に再びスーパーに向かっていた
。

よりによって雨が降っていたにもかかわらず。

どうせ、ビスケットも買い忘れていたし。

………ん？

そう。レアチーズケーキの下にはやっぱりビスケットだよね。

クリームチーズが足りていたとしても、ビスケットなしのレアチーズケーキはあり得ない。
作る意味も見出せない。

そんなこだわりさえもすっかり忘れていたんだからしょうがあるめぇ。

忘れてばかりの日々。

食べたいメニューの材料に絶対妥協ができない私は、主役のクリームチーズと欠かせないはずのビスケットを買いに走った。



記憶というものは、新しい記憶に上書きされやすいもので。
なんせ3秒前ですら忘れるんだから。

そう、近所のスーパーで真っ先に私が向かったのは、乳製品エリアではなくお菓子コーナー。

クリームチーズはビスケットに上書き保存されて消えちゃった。
主役を超える脇役すごいよね。

嘘ではない。

あり得ないけど本当にあった怖い話。

異常に思われるだろうが、私にとってはむしろ通常運転。

なぜかビスケット全種類の食品表示を見比べ、散々悩んで納得の一つを選び抜き、納得顔でレジに向かう途中で、ふと思い出した。

あ、そば粉。


実は、この前日の夜に運命の出会いを果たしていた。
いや、運命でもなんでもない。

朝ごはんに、なんと、あのガレットを易々と作っている輩を見つけたのだ。

え、ガレットってあの、パリッとした生地に、目玉焼きとか生ハムとか色鮮やかなベビーリーフたちがオシャレな顔して畳まれているだけの、ただの平たいクレープもどき？

しかも、そのクレープもどきにお店で食べると1,000円以上もする、ぼったくりの二重詐欺メニュー？

と思いましたよね？

そう、そのイケ好かないやつが昔から好きだった私。


だからね、もう目から鱗。朝ご飯はコレだ、と確信したんです。

なのに、この時まですっかり忘れていた。

正直、朝はやっぱりコーヒーが飲みたかった。
和食でもなく、パンでもない。そう、もうガレット以外考えられない。


ガレット一択。


そもそも、どうしてこんなにガレットが好きだったのに、その存在を忘れていたのか、そこが悔しい。


ガレット＝外で食べるものという先入観が邪魔をしていたのだ。

先入観め。



ガレットぐらい作れるさ。

生地を焼いて、その上に目玉焼きと具材乗っけて四角く畳むだけさ。


そもそも、そんな簡単な代物に1,000円以上も払っていたと思うと、どれだけ私はガレットを崇めていたのだろう。
可愛いな、私。よし、そば粉を買いに行こう。

と、運命とまで豪語するほどだった前日の記憶が、粉ものコーナーを通るまで一体どこにいっていたんだろう。

ガレットへの熱い情熱もガレットからごめんなさいだね。


さて、奇跡的にそば粉思い出したものの、スーパー中探せど、小麦粉や片栗粉、米粉しか置いていない。
そんじょそこらのスーパーで、そば粉は売っていないのか、どこにもない。


仕方ない、最悪Amazonで買えばいいさ、といきり気味でレジへ向かい、いつものように電子マネーでサクッとお会計して帰路へ。


さ、朝ごはん問題も解決したし、気を取り直してレアチーズケーキ作ろ。

レシピ、レシピ♪♪

．．．．．．．．．．．．絶句。


クリームチーズないじゃん。

チーン。

チーン、て。リアルに、言った。

人はなぜ大事なことすら、いとも簡単に忘れちゃうんだろう。

こんなに好きなのに。
忘れたくないのに。

忘れてしまいたいことはずっと頭の中から離れないのに。

さすがに、レアチーズケーキなんてもうどうでもいいって思いますよね？

そんな野暮な私じゃないんだ。
諦めが悪いんだ。

悔しいけど、やっぱり頭から離れなくて。
忘れたくても、もうそれしか考えられなくて。

だって、レアチーズケーキを作ろうって思ったから、そば粉を思い出したんだもん。

感謝だよ。

クリームチーズを買い忘れたおかげ。

この時ほど、忘れるのも悪いことばかりじゃないって思ったことはない。
ほぼほぼ悪いことしかない気もするけど。

敬意の念を込めて、クリームチーズを買いに再びスーパーに向かったのは言うまでもない。

そば粉も忘れずにね。