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【小学校受験】私立小学校の偏差値(東京編)

小学校受験には、公表された偏差値というものがありません。
これは、不用意に小学校受験という荊の道に足を踏み入れてしまった親御さんが、最初にぶつかる大きな壁です。

もちろん小学校受験に少し浸かると、どうやら大手のお教室では模試結果に基づいて受験偏差値を算出しているらしいことを知ります。
さらに、そもそも小学校受験は本人(幼児)の勉強の出来だけでなく、当日の気分や同室受験者の当たり外れ、学校との関係、親の面接や場合によっては推薦者の影響力などなど試験内容以外の要素の影響が大きすぎて、模試の偏差値にあまり大きな意味が無いことにも気付いてしまいます。
しかし中学受験を見据えている場合には、やはり学校の受験に対する姿勢だけでなく、在籍する児童の実績や偏差値も気になるものです。

そこで、中学校の偏差値と、公表されている合格・進学実績に基づいて、その小学校を卒業する児童の偏差値を推計してみました。

◆偏差値の考え方

まずお断りしておきたいのは、ここで計算するのは中学校への進学(合格)実績に基づく、その小学校を卒業する児童の平均的な偏差値です。
幼児がその小学校を受験する際の入試難易度や合格水準を示すものではありません。

そもそも入試難易度の基準として偏差値を用いるのは、どうやら日本の受験業界特有の慣習のようです。
ペーパーテストは内容次第で必ずしもその得点が正規分布するとは限りませんが、それを正規分布すると仮定して算出しているのが、いまや入試に無くてはならない偏差値です。
その統計的な意義については議論もあるところですが、母数の大きさとテスト内容の工夫によって、合格水準の比較や受験校選択の際の実用的な指標として広く受け入れられています。
今回はその偏差値に対して、さらに平均と標準偏差を計算しています。

中学受験の実績は、あくまでもその小学校の特徴のひとつに過ぎません。
今回は、私立小学校と聞くと最初に思い浮かべる伝統的なエスカレーター式附属小学校の対極にある、中学受験を前提とした学校にも光を当ててみるべく、あえて小学校受験ではあまり馴染みのない偏差値という指標を取り上げました。
ニッチな領域ですが、それ故に定量的な情報が少なく比較し辛い部分でもあります。ひとつの考え方、という程度のお気持ちでご笑覧ください。

◆内部進学校と外部受験校

私立小学校は、大半の児童が系列校に内部進学する学校と、ある程度積極的に外部の中学校を受験する学校に大別されます。

系列の中学校を持つ学校の多くは、一貫教育を掲げて内部進学を勧奨しています。受験を避けて長期的視点で一定の理念に基づく教育を受けられることが、小学校受験を選択する理由のひとつであることは論をまちません。

一方で外部受験する学校は、小学校が共学でも系列の中学校が男子校や女子校であったり、そもそも系列校が無かったり、外部受験を推奨する風土があったりするようです。
中には、内部進学の権利を保留しながら外部受験できるという野心的な学校もあります。
外部受験する学校を積極的に選ぶ理由は、効率的な中学受験を見据えていたり、医師のご家庭などで最初から内部進学を想定していなかったりと様々なようですが、少なくとも一貫教育とは異なる価値観がありそうです。

これら性質の全く異なる両者を混ぜてしまうと定量的に比較する意味が無くなってしまいますので、今回は「内部進学校」と「外部受験校」の2つのグループに分けて並べてみることにしました。

◆偏差値一覧

表の見方

オレンジ色は、中学校の合格・進学実績を公表していない学校、いわゆる内部進学校です。
便宜上、系列中学校の偏差値をその小学校の偏差値としています。

水色は、中学受験の合格・進学実績を公表している学校、いわゆる外部受験校です。
真ん中の丸が平均値、バーの上端がその学校内の偏差値60ライン、下端が偏差値40ラインです。平均値±1σですね。
なお統計上は、その学校の上位16%の児童は上端より上に、下位16%の児童は下端より下に存在することにも留意してください。

水色点線の学校は、人数が公表されていなかったり、「主な」実績として一部しか公表されていないために、正確な計算ができない学校です。
参考までに、公表されている情報だけで計算はしていますが、下位校の除外等で数値が上振れしている可能性があることに注意してください。

◆内部進学校の偏差値

内部進学校の偏差値は、基本的に系列中学校の偏差値そのままですので、ある意味わかりやすいですね。
なんとなく、イメージどおりの並びなのではないでしょうか。

もちろん、全員が無条件に内部進学できる訳ではなかったり、複数の系列校に振り分けられたりする場合もあるようですので、実情がこの表とは大きく異なる可能性もあることにご留意ください。

このグループに関しては巷に情報が溢れている上に、偏差値での比較は望まれていないと思いますので、多くは語らないようにします。

◆外部受験校(中受校)の偏差値

外部受験校の偏差値は、平均値と±1σのバーで表現しています。

とはいえ、公式Webサイトに(恐らく)完全な形で合格実績と進学実績を公表しているのは国立学園小学校の1校のみ、どちらか一方だけ完全な形で公表していると思われる学校も数校程度でした。
その他の学校は「主な」実績として公表されています。
定員数と比較してある程度信頼できる数字に見える学校は実線で載せていますが、数値が上振れしている可能性もあることにはご留意ください。

国立学園小学校

・平均偏差値:65
・校内偏差値60ライン:74
・校内偏差値40ライン:56
都内で唯一完全な形で合格実績と進学実績を公表しながら、外部受験校の中では平均偏差値トップです。
単純計算すると、この学校で校内偏差値55の子は首都圏模試で偏差値70ということですねちょっと理解が追いつきません。
また別の記事で紹介していますが、外部受験校では2校のみ、内部進学校をあわせても都内有数の歴史を誇る伝統校でもあります。
子どもたちはひたすら勉強漬けの日々を送るのかと思いきや、掲げるのは「文武両道」。公式Webサイトには様々なクラブ活動だけでなく、最近見ることの少なくなった運動会での騎馬戦や組体操の写真が並びます。
系列中学校が無く中学受験が「普通」という環境と、伝統校でありながら併設学童だけでなく実質的な併設塾(放課後プラス)など伝統にとらわれない取組みを進める革新性が、この唯一無二の学校の魅力と実績を支えているのかもしれませんね。

東京都市大学附属小学校

・平均偏差値:64
・校内偏差値60ライン:74
・校内偏差値40ライン:55
私の世代では東京都市大学と言われてもピンとこないかもしれません。旧武蔵野工業大学ですね。
併設学童こそ無いものの、放課後の課外スクールや給食、Pasmoによる入退構管理や1年次のスクールバスなど、安心のサービスが用意されています。
また、系列に附属中学校と等々力中学校を擁しながらも外部受験が多く、成績次第では内部進学との併願も可能です。
2期4ステージ制や土曜授業、6年生の10月で修了するカリキュラムなど、系列校への内部進学を前提とした学校とは一線を画す中学受験を見据えた教育体制と、それに裏付けられた合格実績は、中学受験を目指すご家庭には心強いですね。

宝仙学園小学校

・平均偏差値:64
・校内偏差値60ライン:75
・校内偏差値40ライン:53
中学受験の進学実績は公表されていないものの、合格実績は完全な形で公表されています。(説明会では進学実績も掲示されているそうです。)
真言宗 宝仙寺を母体としたいわゆる宗教(仏教)系の学校ですが、多くの宗教系の学校が内部進学による一貫教育を前提とした理念を掲げているのに対して、この学校のカリキュラムは中学受験を前提としており、実際に殆どの児童が中学受験するそうです。
また、この学校では一般的な入試のほかに、IQ125以上の幼児を対象とした「推薦入試」という独特の単願入試が行われています。
私立小学校には多かれ少なかれ英才教育の側面はあるかと思いますが、その中でも教育目標の一つに「高い学力」を掲げてIQの高い児童を集めるという明確な姿勢は、ご家庭の教育方針とのミスマッチを防いで学校との連帯を強める効果もありそうですね。

聖徳学園小学校

・平均偏差値:63
・校内偏差値60ライン:74
・校内偏差値40ライン:51
公式Webサイトには「英才教育」「知能」「IQ」といった単語が並び、他校にない独特の雰囲気が漂います。
独自基準で測定するIQを指標とした「IQを伸ばす教育」を掲げており、その世界観や尖った姿勢には毀誉褒貶あるようですが、少なくとも中学受験の進学実績についてはご覧のとおりです。
併設学童や給食など、共働き世帯に優しいサービスも用意されています。
私立小学校の英才教育の側面をひたすら突き詰めたようなその姿勢は、知能訓練・知能開発といった考え方に共感するご家庭にとっては有力な選択肢になりそうですね。

トキワ松学園小学校

・平均偏差値:58
・校内偏差値60ライン:70
・校内偏差値40ライン:47
系列に女子中学校を擁しており、男子は全員外部受験、女子は多くが内部進学します。
1クラス23名程度の少人数クラスや15分単位のモジュール制の授業、系列の横浜美術大学の教員による図工のワークショップなど、ユニークな取組みが行われています。
パンフレットには大きく「トキワ松ファミリーの仲間に!」とあり、至る所で「アットホームな学校」というコメントを見かけますので、これが学校のイメージを語る上でのキーワードのようです。
男子にとっては自然に中学受験へ向かう環境が整っている中で、他の外部受験校にはないアットホームな雰囲気という特徴は、大きな強みの一つなのかもしれませんね。

文教大学附属小学校

・平均偏差値:58
・校内偏差値60ライン:69
・校内偏差値40ライン:47
日蓮宗の流れをくむ宗教(仏教)系の学校で、児童の1/3程度は系列の中学校へ内部進学します。
2/3程度は外部へ進学するため、中学受験にも対応できる教育カリキュラムが編成されているほか、全学年対応のアフタースクールを併設しており、4年生からは放課後に補習授業も用意されています。
また、オーストラリアへの短期留学や1~6年生で班編成した2泊3日のキャンプなど、積極的な学校行事を通じての体験を重視した教育は、小回りの利く規模の学校ならではです。
さらに、6年生の前半で修了するカリキュラムは外部受験校の定番ですが、3学期の後半に写経の授業を行い池上本門寺に奉納するのは、仏教系ならではの受験対策といえるかもしれませんね。

聖学院小学校

・平均偏差値:57
・校内偏差値60ライン:67
・校内偏差値40ライン:47
宗教(プロテスタント)系の学校で、児童の半数程度が系列の中学校へ内部進学します。
半数程度は外部へ進学しますが、中学受験に対する特別なサポートは無いようです。
教育の特色のひとつに「キリスト教教育」が挙げられており、毎日の礼拝から学校行事まで宗教と密接に関わる教育が行われています。
また英語教育に特徴があり、英語検定の準会場校になっているほか、5年生になると全員3日間英語漬けの英語キャンプに参加し、希望者はオーストラリアへの短期留学を経験します。
中学受験を前提としていない中での比較的ハイレベルな進学実績は、中学受験塾の成果だけでなく、学校でも質の高い教育が行われていることの証左かもしれませんね。

◆おわりに

まとめ

内部進学校の陰に隠れがちな外部受験校ですが、たとえば今回都内トップになった国立学園小学校は入試がいわゆる内部進学の名門校と同日程ながら募集人数は都内最大規模の100名超を誇るなど、実は強い需要に支えられた一定の市場が存在しています。
しかし、指標のひとつとして広く出回っている志願倍率は、入試日程・回数や募集人数で恣意的な調整が可能な数字であり、必ずしも需給を反映しているとは言えません。
今回は結果的に、志願倍率とは異なる、新しい視点を提案することになりました。

ただ、各学校を詳しく調べていくと、「外部受験校」「中受校」と一括りにできないほどに、教育理念や教育方針、設立の背景は様々でした。
図らずも、偏差値から手繰った先で、「私立小学校は理念・方針への共感や子供との相性で選ぶべきもの」という考え方に更に納得させられてしまった形です。
これをご覧の皆さまにおかれましても、ご子息・ご令嬢の人格形成に重要な初等教育6年間を過ごす場のことですので、表面的な数字だけで判断するのではなく、是非実際に足を運び話を聞いて、本人の性格やご家庭の方針に合った学校と出会っていただきたいと願っています。

ちなみに「東京編」と題してはいますが、手作業の集計が大変すぎて、対象範囲を限定しないとの手に負えなかっただけなのは内緒です。本業のお仕事が比較的忙しくて、いまのところ続編執筆の目途はたっていません。。

それでは最後になりますが、皆さまにピッタリの小学校との出会いが訪れることを心よりお祈りしております。

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APPENDIX(計算方法)

以下は、今回の計算方法です。

  • 進学先中学校の偏差値の進学者数による加重平均を、その小学校の偏差値とする。

  • 進学先中学校の進学者数を公表していない場合は、各進学先中学校への進学者数を1名とし、募集定員との差分を系列中学校への進学とみなす。

  • 進学先中学校を一部(上位校等)しか公表していない場合は、募集定員との差分について、公表された中に系列中学校を含まない場合は系列中学校への進学とみなし、系列中学校を含む場合は偏差値50の中学校への進学とみなす。

  • 進学先中学校を公表していない場合、または進学先中学校に関する情報が明らかに不完全な場合は、合格中学校の偏差値の合格者数による加重平均を、その小学校の偏差値とする。

  • 進学先中学校を公表しておらず、合格中学校の合格者数も公表していない場合は、各合格中学校の合格者数を1名とし、募集定員との差分を系列中学校の合格とみなす。

  • 進学先中学校も合格中学校も公表していない場合、または進学先中学校と合格中学校に関する情報がいずれも明らかに不完全な場合は、全員が系列中学校へ進学したものとみなす。

  • 中学校の偏差値はデータベースで公表されている首都圏模試センターの偏差値を基本とし、数値に幅がある場合はその単純平均値を用いる。

  • 首都圏模試センターに掲載の無い学校は四谷大塚、シリタス(Web)の順に参照する。(カバー範囲の広さを優先し、母集団が比較的上位に偏るサピックス等を参照しないため、偏差値は高めに出る)

  • 公立中学校は、偏差値35(最低値と同値)とする。

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