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バングラデシュ・プログラムの振り返り(後編)

大瀬「今回のバングラデシュ―日本オンライン学生交流プロジェクトについて、参加した学生たちは皆、すごく良いプログラムだったと言っていますよ。私は成功と言っていいと思うのですが・・・成功に至るやプロセスや、成功に導いた工夫などあれば教えてほしいです。今後の活動の参考になりますので。」

まず、関わった学生たちが言う「成功」とは「主観的」な判断に基づくものであるということを押さえて置く必要がある。
彼らはこのプログラムを通じて何らかの学びを得て、自分自身の成長に繋がったことを感じ、その気持ちを「成功」という言葉で表現しているのだと思う。個人の成長と言う観点では各々一定の成果はあっただろう。一方で、これまでに開催してきた数多くのプログラムと比較して「客観的」に観察すれば、このプログラムが必ずしも成功だったとは言いきれない部分もある。準備期間不足、計画性の欠如、バングラデシュオーガナイザーとのコミュニケーション不足・・・問題点は多々あり、プログラムの裏側では大崩壊と常に背中合わせであったと言える。

大瀬「大崩壊と隣り合わせ…。この言葉からプログラムの裏側でオーガナイザーや先生がどれほど大変な思いをして動かれていたかが想像できます。それでも、崩壊を防ぐためにオーガナイザー学生や参加学生が必死になったことで成長できる機会を得られ、「成功」と思えるプログラムになったのではないでしょうか。」

そうだね。このような、大崩壊せず逆に「成功」と言ってもらえたのは本当に嬉しい限り。感動の輪に包まれた最終日のクロージングセレモニーを見て、本当にほっとした。次から次へと立ちはだかる危機を乗り越えた末にセレモニーでプログラム・リーダーの奥本咲英の号泣した姿が、あのプログラムの本質を上手く表していると思う。

大瀬「リーダーの咲英はクロージングセレモニーで涙を流したんですね。咲英の頑張りは影ながらずっと見守っていましたが、彼女なりに一生懸命頑張っていた分その熱い思いが溢れ出たのでしょうね。涙が出るほど一生懸命になれたプログラムって、結果に関わらず本当に素晴らしいプログラムじゃないですか!」


ここまでは厳しめの視点で話したけど、成功かどうかは別として素晴らしいプログラムだったと思う。別の言い方をすれば、両国の学生皆で作り上げた学生主体の美しいプログラムだった。現地の新聞やテレビで報道され、大使館や現地の有名大学も応援してくれた。
様々な危機を物ともせずにプログラムを進めることのできた要因は3つ挙げられる。

1.AAEE学生アシスタントの強いモチベーション
 プログラム開催を決意してから1ヵ月間の彼らの努力には目を見張った。新しい国(しかもインターネット環境の不十分な国)で経験の少ないオンラインプロジェクトを開催するのが困難を極めることは最初からわかっていた。それを承知で立候補してきたメンバーだけあって、驚異的に「打たれ強かった」(笑)。募集要項を作成し、両国の参加者を公募・選考し、コンテンツを作り、合格した参加者で事前準備を行い、現地の協力体制を築く。これをすべて一ヵ月で行ったんだ。これがどれほど大変なことか、朝楓ならわかるよね。


大瀬「ベトナムプログラムやネパールプログラムでは、一つ前のプログラムが終わるとすぐ次回プログラムの準備が始まりますもんね。その長期間の準備期間があっても、一つのプログラムを作り上げることはとても大変なことです。それをたった1ヶ月の間で0からつくりあげたオーガナイザーメンバーの努力は本当に素晴らしすぎます。」

 周囲の人々からは無謀な試みだと言われたよ。運の悪いことに準備段階でバングラデシュで国レベルでの大規模なインターネット障害に見舞われたんだ。復旧はいつになるかわからない・・・。僕は学生アシスタントに最初から伝えた。「最悪の場合、プログラムの途中でバングラデシュメンバーが(ネット事情で)全員居なくなってしまう可能性すらある。その場合、残された日本メンバーだけでプログラムを進行しなければならない」と。それでも彼らはやりたいと言った。考えてみれば、AAEEの学生アシスタント達は人一倍国際交流には関心が強い。皆コロナ禍で機会を失っていたから必死だったのだと思う。」

大瀬「そうですね。今年はコロナの影響で留学途中で帰国せざるを得なくなった人や留学予定や夏に海外プログラムに参加希望だったのに行けなくなった人が多くいましたもんね。私自身もこの夏休みの予定がなくなってしまったことはフラストレーションが溜まりました。」

 そもそも彼ら自身がコロナ禍の被害者でしょ。貴重な大学生活の夏休みの夢や希望が絶たれて絶望感に打ちひしがれていた。だからこそ、留学と同じくらい「すごい」体験をさせてあげたいという思いが強かった。そこで、一つ一つ話を大きくしていったんだ(笑)。元々能力の高い彼らは、それを真に受けて1ヶ月間本気で頑張ってプログラムをつくりあげていった。その結果、バングラデシュ中で注目されるプログラムになってしまった (笑)。

大瀬 「人のモチベーションを上げていく話術、先生の得意技ですよね (笑)。でも言葉だけでなく、関先生は学生と正面からぶつかってくださるので、学生アシスタントも一生懸命、必死に食らいついていたんだと思います。私もその一人なので気持ちがすごくわかりますね(笑)。」

2.プログラム参加者の本気
 コロナ渦の被害者は学生アシスタントだけじゃない。短い期間での公募に食いついてきた参加者ほぼ全員、コロナ禍で留学や国際交流プログラムが中止となって行き場を失っていた。詳細な書類選考を経て、英語のみでの30分以上の選考面接。さらにプログラムの限界を敢えて伝え「それでも頑張る!」と意思表示をした学生のみが合格した。彼らのやる気やパフォーマンスは本当に凄かった。プログラムテーマである「貧困と教育」について、バングラデシュメンバーと一週間、ひたすら議論し続けた。これまでのAAEEのプログラムでは、英語力の高い相手国の学生たちに圧倒されてしまう場面も少なくなかったが、今回のメンバーは逆にバングラデシュトップ大学の学生を逆に圧倒するシーンすら見られた。最終日に開催されたオンライン・ライブイベントではグループ討論に加えて学生共同声明まで発表し、「学生がオンラインでここまでやれるとは」とアジア中の人々から絶賛された。

大瀬「ベトナムプログラムに続き、バングラデシュプログラムの参加日本人学生もかなりしっかりとした学生が集まったんですね!プログラムが綱渡りな運営の中でも素晴らしいものになったのは、参加者の方々がAAEEの活動に賛同してくださり、本気で取り組んでくださったからでもあるんですね。AAEEが目指す姿でもある「学生主体」のプログラムにが実現できていることを感じます。」

3.感動の瞬間
感動の場面を作り出すことが、プログラム成功の秘訣であることは前にも話したけど、今回も僕は必死に手がかりを探し続けていた。

大瀬「感動ポイントを作るのは経験がないとなかなか難しいですよね。今回は交流よりもリサーチを重視したと言っていたので、交流メインのプログラムより感動ポイントは作りづらいように感じます。オンライン下でどのようにこのポイントを作り出したのですか?」


先に結論を述べると、感動を生み出すのが難しいと言われるオンラインであっても感動させることができ、その後の雰囲気も変えることができたよ。
そのきっかけとなったのが、Zoomの画面に見える参加者の背景。

大瀬「Zoom画面に映る背景ですか?」

バングラデシュの参加者の一人が、常に部屋の中ではなく背景にはとたんが写っていた。いわゆる途上国などに行ったことがある人はわかるかもしれないけど、Wifiの電波を求めて室内ではないところに出る人もいる。
その彼の姿を見て、彼はバングラデシュ一番の優秀な大学に通っているが決して裕福な生活をしているわけではないかもしれないと思った。そしてそのような話をオーガナイザーミーティングの時に話していた。

大瀬「なるほど、確かに途上国にいくとWifiの電波は日本のように比較的に自由に繋がるところは少ないですよね。えも、その背景が感動ポイントとどのように関係してくるのですか?」

プログラムを観察していて、最終日のライブイベントで今回のテーマであった”Poverty and Education”について共同声明を出したが、この共同声明におけるスピーチを感動ポイントに持っていこうと思った。
そこで日本側のスピーチはプログラムリーダーであった奥本咲英に頼もうと考えていたが、バングラデシュ側のスピーチを誰に頼もうか迷っていた。そんな時に、彼と同グループでディスカッションに参加していたオーガナイザーの一人が「先生の言っていたことは間違いじゃないかもしれない」と言ってきたんだ。話によると、ディスカッションの中で彼は自身のこれまでの生活と貧困について話してくれたそうだ。

そこで彼だからこそ伝えられることがあると思い、バングラデシュ側のスピーチを彼に頼んだ。
彼も承諾してくれ、事前に一生懸命思いをこめたスピーチ原稿を書いてくれた。その原稿を英語力と表現力抜群な日本人メンバーに編集してもらい、本番直前に彼に渡した。
二人の発表はいずれもとても感動的なスピーチだった。まず奥本咲英は、困難な状況でもしっかりと育ててくれたお母様への感謝の気持ちを込めた。Zoom上に感動の雰囲気が行き渡った。続いてバングラデシュの学生、壮絶な貧困との格闘体験を話し始めた彼は、読みながら彼自身が途中から泣き出した。それにつられる形で皆んなも涙を流していた。
あれが感動の瞬間となった。以降、プログラムの雰囲気が一気に変わっていったよ。

大瀬「皆んなが涙を流したスピーチ…。表面上だけじゃない、それぞれの熱い思いが込められたスピーチだからこそ感動が生まれたんですね。そしてそれは、プログラムを観察して相手を理解しようとしなければわからない。ぜひ各々のスピーチはアーカイブにしてオンラインライブイベントに参加できなかった方々にも聞いていただきたいですね。」

プログラムにはいろいろな問題があったけど、あの二人のプレゼンを聞いて感動できただけでも、参加した価値があったと思う。あの感動の瞬間を作り出すために僕たちはプログラム開始直後から注意深く皆の様子を観察し検討を重ねた。AAEEの国際交流プログラムにおいては毎回感動のシーンが起こるが、それは決して偶発的なものではない。様々な学問分野の知見を混ぜ合わせて工夫を重ねた結果発生させるプロフェッショナルな技。そしてその感動こそが、参加者にとってその後の人生の糧になることすらある。

大瀬「感動ポイントの話は先生から何度も聞かされていますが、感動に対してここまでこだわる国際交流団体は他には絶対ない!と断言できるほど強い思いが込められていますよね!」
「バングラデシュ・プログラムは来年も続きますか」

それは学生アシスタントが決めることだけど、個人的には続けてほしいね。今回、現地でかなり脚光を浴びたので、来年、今年よりも計画的に開催したら、多分バングラデシュの大臣級の方々が応援してくれると思うよ。

大瀬「大臣級の方々!?それは逆に大きなプレッシャーになりますね(笑)。それでも、このように少しずつ新たなことに挑戦し続けるAAEEのプログラムが大きく拡大していけると嬉しいですね。
改めてバングラデシュプログラムお疲れ様でした。」

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