見出し画像

Appetite for Destruction破壊願望


■80年代のロスアンジェルス



今でも仲良くしてくれている友人が1980年代の後半にロスに住んでいたことがあり、当時からロスの様子については色々と話してくれていたものです。

80年代の後半になると、昼も夜もロスには若者が溢れかえっていて、それで、そこから色んなユースカルチャーが生まれて大きなムーブメントになっていくそんな場所だったようです。ロックで言えばミクスチャーみたいな何でもありだったり、スケボーだったり、ファッションや車なんかの流行も生まれるような場所であったということです。
私もそんな話を聞いて憧れが膨れ上がるばかりでした。

多くの若者から支持されるバンドはは金のなる木のごとく、レコード会社の争奪戦が繰り広げられ、様々なプロモーションの下、デビューしていくようなことが起き、日本でもLAメタルなんていう呼び方でハード・ロック、ヘヴィ・メタル系のアーティストが次々にデビューして行くことになったわけです。

クワイエット・ライオット、モトリー・クルー、ラット、ドッケン、といったバンドが有名ですがその他数々のバンドが日本で紹介される度にLAメタルの最終兵器だのLAメタルの最後の大物だのという触れ込みが後を絶たなかったので、私も少々食傷気味だったというか、そうそうLAばっかにかまってられないよ、という感じになったのがちょうど予備校に通って大学受験という時期と重なって新しいバンドを追っかけなくなっていたのです。

シーズン13で取り上げるガンズ・アンド・ローゼズもじつはそんな80年代のロスアンジェルスで生まれたバンドです。

■スキャンダラスな銃と薔薇



名前のガンズ・アンド・ローゼズ、前進のバンドがL.Aガンズとハリウッド・ローズということでそれぞれのバンドが割れてくっついたことからガンズ・アンド・ローゼズという名前になったということで、割と安易ながらなかなかロック然とした象徴的な名前だなぁと思ったりします。

銃と薔薇ですから初期のロゴには2丁の銃に薔薇の蔦が絡まった図が描かれていますし、Tシャツにも薔薇と銃が描かれていることが多いです。

先に述べたような理由でデビュー直後のガンズ・アンド・ローゼズは聴いていませんでしたが、雑誌なんかでガンズのメンバーであるアクセル・ローズが他のバンドをdisたり、正にセックス、ドラッグ、ロックンロールといったスキャンダラスな話題が雑誌に載っていたりして、「なんかやんちゃなヤツらが出てきたなぁ」と言う感じで認識はしていました。

ただ、エルビスから始まり、ビートルズやストーンズ、ピストルズだって、スキャンダラスな話題を振りまきました。ロックンロールの世界ではめずらしいことではなく、そんなやんちゃな奴らが出てくること自体が日常茶飯事だということは皆さんが理解されていることだと思います。

スキャンダラスな話題を振りまくアーティストのアルバムを皆が買っていたらオジー・オズボーンのアルバムはもっと早いうちにチャート全米No.1になっていたはずです。

■おしゃれなカフェバーで流れる“Well Come to the Jungle”

そんな言い訳もあって、私は暫くガンズ・アンド・ローゼズを無視していたのですが、1988年の頃にはもう否が応でも耳に入ってくるほどガンズの曲は破壊力デストラクションを持っていました。

前にも触れたかもしれませんが、大学1年生の頃、私は奈良の街中にあった洒落たカフェバーでアルバイトをしていたのですが、そのカフェバーがBGMで有線放送で洋楽のヒット曲を流すチャンネルにしていたので、そこで聴いたことのないスリリングなギターのイントロのオーソドックスなハードロックナンバーが頻繁にかかるんです。モトリークルーのビンス・ニールをパワフルにして表現力や歌心を効かせたボーカルにスリリングでドラマチックなギターのイントロやソロ、アタックが効いていながらグルービィなベースリフ、全体としては70年代のエアロスミスを思わせるようなルーズな雰囲気が80年代に新鮮さを感じさせて、特別新しさはなくてもその時に他にはない感じの曲でした。何度も流れて耳に残ったので、有線で流れた時間をひかえて、有線のフリーダイヤルに電話し「洋楽チャンネルで何時何分に流れた曲は誰の何という曲ですか?」と問い合わせたのです。それで、ガンズ・アンド・ローぜズの“Well Come to the Jungle”だと知ったというわけです。

同時によく流れていたのが"Sweet Child o' Mine"です。こちらは“Well Come to the Jungle”から一転してスィートはバラード調の曲ですが、後半は独特のグルーヴ感があるこれまた一回聴くと忘れられない曲でした。

ガンズ・アンド・ローゼズはLAメタルの土壌から出てきていますが、オーソドックスなハード・ロックをベースにドラマティックな歌と演奏で広い層にリーチしていたようです。洒落たカフェバーで流れても雰囲気をぶち壊しにするようなことがないほどよさで。

■ガンズ・アンド・ローゼズが変えたロックの景色


シーズン8からシーズン12まででお話ししてきたのはロックが華々しく時代を彩った時期のものでした。特にアメリカでわかものが溢れていたロスアンジェルスなんかは時代を象徴するかのような華々しさだったようです。

ガンズ・アンド・ローゼズはそんな華々しい環境下で一番最後から出てきてすべてを総ざらいのように持って行ってしまうほどのインパクトを持っていました。
そして、そのキラキラとした華々しさをロックが本来持っている猥雑で毒々しくも美しいものに戻してしまったのかもしれません。

1stアルバムの“Appetite for Destruction”から最初にシングルカットされた“Well Come to the Jungle”のPVでアクセルは髪を逆立て、メイクをしたまさにスタジアムロック全盛期の装いで登場していますが、翌年1988年にシングルカットした"Sweet Child o' Mine"のPVでは髪を下ろしバンダナを巻いた多くの人がイメージするあのアクセルのスタイルになっています。もちろん派手なメイクもありません。ロスのサンセットストリップにあるクラブに出演するバンドがヘアスプレーをやめメイクを落とし派手な衣装を着なくなって、みんなアクセルもどきになったというのは結構真実味を帯びた話です。
ガンズアンドローゼズと言うバンドはそれくらい影響力があったバンドだということです。
ただ、アクセルは周りにガンズもどきが雨後の筍のように現れたことを嫌って、他に誰も真似できないようなスタイル、たっぷりとしたTシャツにピッチピチの短パンでステージに立つようになったとか。
それは、LAに芽生えた華々しいロックのスタイル、それにとって代わったワイルドなロックンロール回帰のスタイル、自らを破壊することに欲望を感じた行為のようにも思えるのです。

https://youtu.be/zQdt7Renjlc

■おまけ
"Well Come to the Jungle"の歌詞は脈絡のない語りかけのようで、一人称は誰?と思ってしまいますが、どうやら「ジャングル」とは大都会のことで、当時のロスアンジェルスはまさにジャングルのような何かわからないものがひしめくような雰囲気があったんだろうなぁ、と想像します。
「お前は死ぬぞ」という不穏な歌詞も諸説ありますが、アクセルが実際に言われたことらしいというのはアクセル自身の説明でもどうやら本当のことらしいです。
アクセルの言動はとてもアーティスティックだなぁと思うのですが、彼がロスもしくはニューヨークに降り立った時はまだまだ20歳そこそこのプリティ・ボーイだったのですから精神的にも身体的にも武装をしなければならなかったんだろうなぁと想像します。そしてまさにそれが攻撃的な表現になって爆発したのが”Appetite for Destruction”だというような気がします。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?