唇
5人の男女。
コンクリ打ちっぱなしの無機質な部屋。
真ん中にはテレビモニター。
ガンガンと鳴り響く頭を押さえながら目を覚ますと、そんな嫌な予感しかない景色が広がっていた。
右隣の香水臭い40代っぽい見た目の女性は、しきりに「どうなってんのよ!? 誰よあんたたち!?」と発狂したようにがなり立てている。
そんな彼女に耐えかねて、今度はその奥にいる30代風の男が吠える。
「そんなにギャーギャー騒ぐなよ!」
香水臭い女性は男の方を睨みつけると、置かれた状況へのストレスを口汚さに乗せて吐き出した。
そんな状況に限界が来たのが、今度は怒鳴る2人のトイ面の大学生風の女性が「もうやめてよ!」と泣き出し、その横の冴えない中年男性がオロオロと汗ばんでいる。
「あんたはなんか知ってるの!?」
そう僕に矛先を向けた香水女に、僕は身をかわすように短く首を振る。
「ったく…どいつもこいつも…」
バッ…ブブブ……
と、突然真ん中のテレビ画面がつく。
慌てる一同をよそに、画面にはつぎはぎだらけのなめし皮でできた仮面で口から上を覆った不気味な人影が現れた。
「…やあ、皆さん。さっそくなかよ」
謎の人物の話を受けてなのか、皆がにわかにざわつき始める。
「…ちょっと…何よこれ」
「おい、どうなってんだ?」
「何言ってんのこの人? 壊れてるんじゃない?」
「ああ…どうしよう…」
だが僕は、そんな連中には目もくれず、画面の人物の説明に集中する。
なるほど、多少の犠牲はあれど、全員が出られないわけではなさそうだ。
「なんか後ろ見てよ! 抜けてんじゃない?」
「しらねぇよ! 俺機械弱いんだよ!」
「使えないわねもう!!」
みんな何を慌ててるんだ? 画面に集中すればいいのに。
女が駆け寄ってくる。
「ちょっと、あんたも」
いや、僕も機械ダメで……。
そう手話で告げると女は苦虫を噛み潰したような顔で画面の方に戻っていく。
ああ、音声トラブルか。
唇見てれば何言ってるかくらいわかるのにね。
(続く)
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