肛門科看護士に告ぐ
立ったままこれを書いている。
痔になったからだ。
痔にも色々あるが、ぼくのはいわゆるイボ痔で、医学的には外痔核という外側に出てくる奴のことだ。15年以上前に似たようなイボ痔になったことがあり、その時のことは過去記事「大丈夫よ、みんな一緒だから」に書いた。
その後、今までたまに脱肛になったりしたことはあるが、帰宅を促すとだいたいすんなり帰ってくれた。
それが、1週間前に
「来ちゃった、、、」
と元気よく飛び出てきた彼女(イボ痔は英語では女性名詞)はどんどん腫れ、自己主張をするようになり、門前から動かなくなってしまった。押しても戻らない。
そのうち引っ込むだろうと見くびって市販の軟膏を塗り、パチンコなど打っていたら急激に悪化し、二日目ぐらいにはヒリヒリ痛みを生じるようになり、とうとう肛門科を受診することに決めた。ぼくだって進んで他人に肛門を見せたくはない。できれば避けたかったけれど、仕方ない。
一応医師が男性なのを確認してから目当ての肛門科へ向かうことにした。ブリーフの中に子ども用オムツを裂いて敷き、その上にローションティッシュを何枚か置いてから患部を優しく包むことにした。ブリーフを上げる前に手鏡で彼女を映して見た。春の訪れを知らせる草花のようにまだまだ力強く咲き誇っている。
「行くぞ」
と告げると、かすかに頷いたような気がした。
何しろ座ると痛いので車の運転も柔らかいクッションを敷いて、なおかつ足で床をに突っ張って尻に重心をかけないようにしている。頭が天井に付きそうで、やたら座高の高い奴になっている。
肛門科に行くと、医師はめちゃくちゃ明るくてハイテンションな人だった。何がそんなに面白いんだと問い詰めたくなるほど弾むような口調で言った。
「さーて、今日はどうしましたか?」
「痔です。イボ痔のひどいやつで」
「いつからです?」
「2日ぐらい前からなんですけど、市販の軟膏では効かなくてどんどんひどくなってるみたいなんで・・・」
「そうですか、そうですか、ともかく診てみないと始まらないので、診察室へどうぞ」
医師があんまり明るいのも考えものというか、「こっちの苦しみに共感してくれてます?」っていう気になる。こっちはテンションガタ落ちだし、思ったより悪かったらやだなとか不安もあるのだ。
恐れていたことが起きた。診察室には若い子も含めて3人の女性看護師が忙しそうに各々仕事をしていた。彼女たちの顔には「痔の患者が来たことは知ってますが知らんぷりしてますよ」と書いてあった。1番ベテランの看護師がぼくにいった。
「この診察台にお尻を出して横向きに寝て下さい。」
「え、ここに?」
「はい。それからこのタオルをかけてお待ち下さい。」
「わかりました」
女性は慣れた様子で診察台をぐるっと囲んでいるレールにカーテンを引いて即席の個室を作った。ここは目の前で患者を脱がさないだけ、まだしも教育が行き届いている。前は看護師の前で脱がされて指突っ込まれたから。
パンツを下ろしてタオルをかけようとすると、さっきの女性が「大丈夫ですか?」といきなりカーテンを開けて来てぼくの丸出しの尻を覗き込んだ。
「え?!」
このカーテンとかタオルとかには何の意味が?!
全く意味がわからないw
大丈夫じゃないという返事を聞いてから飛び込んできて欲しい。どういうケースを想定して飛び込んできたのだろう?
脱肛が何メートルにも及んでいて出血多量とか?
脱糞しちゃってるとか?
そーゆーのを心配して覗き込んでくれたのかな?
医者に来てる時点で大丈夫じゃないから来てるんだよ。なんで、相手の返事も待たずに入ってこれるの?これ男女逆ならセクハラ事案だよ。
先生がやってきた。
「それじゃ、ちょっと見せてください。」
ぼくの毛の生えた、お世辞にも綺麗とは言えない肛門を前にして、クリスマスプレゼントを開けようとする男子のように明るく言う先生。まさか変態じゃないよなと一瞬疑ってしまう。
「これはこれは立派ですねー。なかなかすごい。これはレベル3ですね。薬と時間の経過で小さくはなりますけどね。」
「押し込んで引っ込むようになりますよね?」
「治らないです!」
めちゃ快活に断言する医師。
「ここまで育つと手術しないと引っ込みません。」
えー、手術したくないんだよ。
それで結局炎症を抑える軟膏と飲み薬をもらって帰ってきた。もちろん指も突っ込まれた。
約2週間が経ち大分意気消沈してきた感のある彼女だが、まだ自宅へ帰る気はないらしい。ドーナツ型のクッションを使っているが、いつも彼女のことが気になっている。
とある肛門科医師の動画で得た知識だが、日本人の成人の3割が痔にかかったことがあり、解剖などで痔が見つかるケースなどから考慮すると死ぬまでに7割が痔を経験するという。
だからあらゆる公共施設や交通機関のベンチや車のシートも含めて全てドーナツ型にしなければいけない。やはり恥ずかしくて言えないだけで、痔持ちはあなたの隣にもいるかもしれないから。そんな歳でもないのに座るのに躊躇している人を見かけたら、いきなりお尻を覗き込むのではなく、「大丈夫ですか?」と手を差し延べてあげてほしい。
患者たちは花をモチーフにした痔持ちバッジをひそかにつけて暗に痔持ちであることをアピールしてもいいかもしれない。年配の患者は無駄に席を譲られることがなくなり、助かるだろう。
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