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推しグループで唯一苦手だった曲が、楽曲選挙で1位になって思ったこと

数年前までアイドルに興味もなかった自分が、驚くほどの熱量で追いかけているグループがある。先日、そのグループが楽曲総選挙を開催し、一位になった曲は全129曲の中で唯一、強烈な苦手意識を抱いていた曲だった。
だがその曲が一位になって、自分はいたく感動し、そして心の底から嬉しいと思った。
そんな話。

ある日、推しているグループが分裂した

推しグループことGANG PARADE(ギャンパレ)は、「みんなの遊び場」をコンセプトに活動する13人組アイドルグループだが、その歴史は笑ってしまうほど複雑で濃厚だ。
2014年結成のカミヤサキとミズタマリの二人組ユニット「プラニメ」に始まり、二度の改名とメンバーの入れ替わり、増員を経て、2019年にメジャーデビュー。しかし、2020年1月、グループの中心であったカミヤサキが脱退を発表。そして同年3月、彼女を除くメンバーたちが、ギャンパレから“分裂”した二つのグループ、「GO TO THE BEDS」と「PARADISES」として活動することが発表された。
問題の楽曲を発表したのはこのGO TO THE BEDS(GTTB)で、ギャンパレの中でも所属歴が長いメンバー、ヤママチミキ、ユメノユア、キャン・GP・マイカ、ココ・パーティン・ココ、ユイ・ガ・ドクソンの5人で結成された。
だが、この分裂と新グループ始動の時期は2020年3月。コロナ禍に突入し、最も規制の厳しかった時期である。
活動が制限される期間が続き、始動から5ヶ月が経った9月6日、ようやく初ワンマンライブが開催。有観客でのライブもフルメンバーでのパフォーマンスもこの日が初となり、GTTBにとってとても大事な一日になった。
問題の楽曲、「現状間違いなくGO TO THE BEDS」(「現状」)がゲリラリリースされたのは、そのワンマン当日になった午前0時のタイミングだった。

「あの日の栄光は戻せない」

MVには、初期BiSの全裸MV、メンバーが馬糞をかけられるBiSHの「BiSH-星が瞬く夜に-」、同じ曲を101回パフォーマンスし続ける3期BiSの「CURTAiN CALL」という、WACKで最も過酷なMVをオマージュしたシーンが詰め込まれた。


これには賛否両論が起こったが、事務所の歴史を詰め込んだ構成や一日でその過酷な撮影をやりとげたメンバーのタフさに、感動し賞賛する声も多かった。
しかし自分はとてもそんな気持ちにはなれなかった。
BiS-BiSHとギャンパレは別の系譜だと思っているからか違和感があったし、所属歴では後輩である3期BiSがやったばかりのことをなぞらせることを複雑に思い、そして単純につらそうなメンバーの姿を見て胸が苦しくなった。
今でもこのMVを観ることには抵抗がある。

だが、MVよりもさらに衝撃だったのはその歌詞である。

「手遅れじゃん みんな思ってる あの日の栄光は戻せない」「周回遅れ」「諦めてくれ」と、ストレートな表現で辛辣な言葉が続く。
冒頭の台詞パートには、メンバーが歌詞を読んで思った一言が使われている。
「見捨てないで(マイカ) 心臓を握り潰されてる感覚(ヤママチ) 責任転嫁は無意味(ユア) 腹を括らなきゃ死(ドクソン) 生きたい(ココ)」
歌詞を見て、自分もまさに心臓を握り潰されたような苦しい気持ちになり、憤りを覚えた。
結成からコロナ禍に苦しみ続けてようやく叶った初ワンマンというときに、どうしてここまで言われなければならないのか。
何より歌詞だろうがどんな意図があろうが、「手遅れ」だなんて言われることが許せなかった。

そんなわけで楽曲発表当時は、この曲を苦手に思っていた。
だが、ライブでのパフォーマンスによって、イメージは少しずつ変化していく。

楽しくて嫌いになれなかったライブパフォーマンス

足を上げ拳を突き上げるサビのダンスや、歌詞に合わせたコミカルな動き、ところどころにちりばめられたギャンパレ時代の代表曲の振付など、激しくも踊りやすく、観ていて飽きることがない。そしてそれを全身全力でパフォーマンスするメンバーにも気持ちがこもっており、魅力が溢れていた。
また、楽曲の冒頭部分はメンバーが横並びで正座をして始まるのだが、いつからかフロアのオタクも正座やしゃがむ姿勢をするようになる。
最初はイントロと同時にしゃがみ始める観客にメンバーも半笑いだったが、馬鹿なことを真面目にやるのは楽しい。そんなフロアの一体感も好きになった。
そうしてライブを通して何度も聴くうちに、「現状」は「苦手な曲」「歌詞が嫌いな曲」から「悔しいくらいめちゃくちゃ楽しい曲」に変わっていった。

そして2021年3月、新メンバーのチャンベイビー(ベビ)が加入。新しい関係性が増えたことで、グループの雰囲気もガラリと変わる。
歌割りの変更もあり、過去を連想し悲痛に感じてしまっていた歌詞でも、ベビが歌うことで違う印象に聞こえるようになった。
ツアーを重ね新体制がなじむころには、「現状」への複雑な感情なんてすっかり忘れ、ライブでは「現状」がかかるのを心待ちにしていたし、大好きな楽曲のひとつになっていた。

ギャンパレとしての「現状」

GTTBとPARADISESは、メンバー総トレードなどを経て、2022年1月、両グループが合流しGANG PARADEとして再始動。分裂中の楽曲もギャンパレとしてパフォーマンスしていく運びとなり、「現状」もその1曲となった。
そして6月。プラニメ時代からの合計129曲を対象とするギャンパレ楽曲総選挙が開催。
結果、結成から何百回と歌われてきた代表曲や熱烈なファンがいるレア曲を押しのけ、「現状間違いなくGO TO THE BEDS」が1位に輝いた。
そこまで票が入った理由は正直分からない。ちなみに自分は投票していない。
だけどこの曲がそれほど愛される存在になっていたことが、たまらなく嬉しかった。

コロナ禍で分裂による0からのスタートに苦労する中で、辛辣な歌詞を突きつけられた「現状」は、崖っぷちに立たされた苦難の象徴だった。
だがどん底の状況でリリースされた「現状」はやがて、そこから這い上がり、勢いをつけて進み続けてきたGTTBの進化の象徴になったと思う。
「手遅れ」「あの日の栄光は戻せない」と言われた彼女たちが、いままたギャンパレとして、新メンバーを増やし、さらに勢いをつけて「あの日の栄光」の先へ進もうとしている。

現在の13人体制のギャンパレは、分裂中のGとPはもちろん、分裂前のギャンパレとも、地続きでありながら全く違うグループだと思う。そして、そのすべてを追いかけてきた人にとっても、「いまが最高」だと言ってもらえるグループだと思いたい。
分裂前、分裂中、再始動後、そのどこで出会った人も、あるいはそのどこかで一度離れてしまった人も、そしてこれから出会う人たちも、全員を巻き込んで連れて行く楽しさと多幸感がいまのギャンパレにはある。
「現状」もまた、発表当初ともGTTBの代表曲として歌われたころとも違う魅力を見せ始めたように感じる。
一度彼女たちに会いに、13人の「現状」を見に、みんなの遊び場へ来てみてほしい。
そしていつか、「現状」がギャンパレの代表曲のひとつとして愛され、ときにはこの曲をきっかけにGTTBやギャンパレの歴史を知り、その複雑さと濃厚さに笑ってしまう人もいるような、そんな存在になったら嬉しい。

さいごに

「現状」をはじめ、楽曲選挙で1位~15位になった曲を披露する配信ライブ(一部有料会員限定)が9月8日に行われる、何卒。
https://live.nicovideo.jp/watch/lv337820390