DXとは「何」だったのか?
DX(海外では英語のままDTと呼ぶ)とは結局「何」だったのか?
すでに過去形で表しているが、最近よく参照されるレビュー論文があるので、簡単に内容を触れておきたい。「レビュー論文」とあるとおり、あるテーマに沿って複数のアカデミックペーパー(学会誌)でどのような内容が取り上げられてきたかを、著者の視点でまとめた論文である。
まず、それぞれの論文のDTの定義について20ほど示されているが、今回は省略する。各研究者は、自身の研究テーマに沿って定義を行っていると考えてもらってよい。
各研究者の研究内容は下図を見ていただければおおよそ理解できると考えるが、レビュー論文では8つのブロックに構造化し、それぞれのブロックについてレビューを進めている。
まずSMACITに代表されるデジタル技術の出現がある(①)。これらデジタル技術は、既存ビジネスの破壊(もしくは混乱、変化)をもたらす場合がある(②)。例えば顧客行動の変化や、新たに出現する競合企業、また利用できるデータが挙げられている。そして、企業は自社の戦略の再構築を進める(③)。
このような環境下で企業は実際にデジタル戦力を実装することになるが、そのために、価値を実現するための業務プロセス、他企業とのネットワーク、顧客へのデジタルチャネルを見直していくことになる(④)。さらに、実現のためには、組織構造、文化、リーダー、従業員等の転換が必要となり(⑤)、多くの企業で、既存ビジネスの慣性と経営層・社員の抵抗にあうことになる(⑥)。
うまく組織を変革できた場合、ビジネス上の成果等をもたらしてくれる半面、セキュリティや情報保護に関するネガティブな状況ももたらされる(⑦)。
Vial (2019)をもとに作成
以上の内容は、DT(DX)に取り組んでいる方には、ある程度理解いただける範囲の内容であろう。それぞれのブロックについては、代表的な論文のレビューが行われているので参照いただければと思う。
ところで、本論文の面白いところは、もう一つ。例えば20年前から言われている「ITがもたらす組織変革(IT-enabled organizational transformation)」と何が違うかである。確かに、ITは以前から組織の変革の有力の手段だった。
下表にDT(DX)と「ITがもたらす組織変革」の比較内容を示す。一言でいえば、DT(DX)との違いは、影響範囲の広さということになるであろう。「ITがもたらす組織変革」は主に社内の組織変革を扱ってきたが、DT(DX)では業界や社会にまで影響が及んでいる。実現方法についても、以前の単独のITの導入ではなく、複数のデジタル技術の組み合わせに視点が移っているのも注目すべき点である。
Vial (2019)をもとに作成
メディアでのいろいろな発言を聞いているとデジャブ感をいだく人も多いと思う。図を見た限りでは、特に組織面のブロックでは20年前と同じことが記載されている。DT(DX)における組織改革は、これまでと何が違うのかと考え込んでしまう。
一方、比較表からは、顧客、社会、企業ネットワークとの関係や影響はこれまでと異なる文脈で語られていることがわかる。そのことからも、デジタル戦略を考える際、技術の採用や組織の変革も重要だが、企業の内に閉じたものではなく、顧客も含めた企業の外への視点を強く意識する必要があるのだろう。