恥を知る。94.『シーサイド物語』

みなさんは結婚式の余興を任されたことがあるだろうか。

私はある。それはもう何度もある。

年齢的に言えば、今まさに結婚式ラッシュで心も体も(お財布も)バタバタしている頃に違いないのだが、なんせこんなご時世である。加えて、もともと友達が少ない私は、結婚式の経験値がかなり低いほうだと思う。しかし職業柄、どうしても余興を頼まれる確率が馬鹿みたいに高い。冷静に数えてみるとおとなしく座ったまま祝った結婚式のほうが少ない。これは本当に、誇らしく、ありがたいお話である。

しかし、この結婚式の余興というのは本当に難しい。もちろん歌って欲しい、という依頼が100パーセントなのだが、カバー曲にしてもオリジナル曲にしても、とにかく難しい。新郎、新婦、どちらの友人として呼ばれたか、ご親族の中に知り合いはいるか、演奏は一人なのか、バンドなのか、新郎新婦も一緒に演奏するのか。どのシチュエーションでも、歌うのが私、というのは変わらない。これが本当に難しい。

つい先日、キラキラと輝く海のそばで行われた結婚式での演奏は、今まででいちばん難しかった。きっと一生忘れられないと思った。

元バンドメンバーの、あららぎの結婚式だった。

あららぎから、結婚式ではPEROで演奏をしたい、というのは随分前から聞いていたし、なんとなくあたりまえにそうなるだろうともっと前から思っていた。もっと前というのはたぶん、あららぎが旦那さんと付き合い始める前からだし、今も他のメンバーにも同じように思っている。おかしな話だが、それくらい自然なことだった。

それから式の当日までに2回ほどスタジオに入って練習し、あれやこれやと近況を報告した。それから練習より長い時間かけて思い出話をした。遠征中のつらかったこと、今だから言えること、楽しかったこと、嬉しかったこと、出会ったたくさんの人や音楽のこと。話は尽きなかった。無理やり話をきりあげ、やるかー、と言ってまた少しだけ練習して、時間ギリギリになって急いで片付けた。昔に戻ったみたいだった。

当日、式場のスケジュールの関係でリハーサル開始時間がとにかく早かった。リハーサルが終わってから、私たちだけでなく新婦も少し外で時間を潰さなくてはならないような状況だった。私たちは久しぶりに4人で1台の車に乗りこみ、海が見えるパン屋さんに行った。そして4人で外の階段に腰掛け、海を見ながらパンを食べた。自分たちが、これから結婚式をおこなう新婦とその友人たちだということを忘れてしまいそうだった。ときおり近づいてくる右足を怪我したハトのことや、とまっている船が何かにぶつかるたびに聞こえる音がゴジラの鳴き声みたいだね、なんて話した。海が本当に綺麗だった。

久しぶりの4人での演奏は今まででいちばんヘタクソだった。主な原因は私だ。泣きすぎた。ことばと一緒に涙がぼたぼた落ちてきた。鼻水がとまらなかった。声も出なかった。でも最高に楽しくて、メンバーはみんなかっこよくて、あららぎのドレス姿はとても美しかった。幸せだ、と思った。

あららぎおめでとう、そしてこんなに大切な日に歌わせてくれて、一緒に演奏してくれて本当にありがとう。ちなみにブーケトスは無事に私が勝ち取ったので私もしっかり幸せになろうと思う。

っあー!本当に本当に本当におめでとう!すえながくお幸せに!

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