恥を知る。96.『パンをたずねて』

とくに嫌いな食べ物がない私にとって、好きな食べ物を口に出していうのはとても難しい。そもそも食べることが好きな私にとっては全ての食物がそこに存在するだけで平均点以上の評価を叩き出している。結局その時の気分や空腹ぐあいに左右されてしまい、毎回フワッとした答えを述べてしまう。

しかし、そんな中でも私が胸を張って毎回口に出す食べ物がある。それがパンだ。

よく考えてみればこれほどフワッとした回答はない。一言で『パン』と言っても、甘いものもあればしょっぱいものもある。かたいものもあればやわらかいものもある。小麦粉も米粉もある。なんでもある。それでも私は言う。『パン』が好きだ。

いつから好きなのかもどうして好きになったのかも全く思い出せないが、気づけばいろんな人にパンの魅力を語っているし、パンの写真だけをアップするインスタグラムのアカウントまで開設してしまった。夜な夜な酒を飲みながらそのアカウントを眺めては1人ニヤついている。これは正真正銘のパン好きで間違いなさそうだ。

そんなパン好きが高じて(?)今回、イベントに誘ってもらった。その名も『パンをたずねて300里』。こう見えて純粋な音楽のイベントである。300里というのは北海道から大阪までのおおよその距離だそうで、主催者はそのイベント名の通り北海道から大阪までやってきた。そして、広島の私を誘ってくれた。

ややこしい。ややこしいが、これまでいろんな土地でバンドや弾き語りでのライブを見てくれたこと、互いにパンが大好きなこと、とにかくイベントへの出演を断る理由はひとつもなかった。

イベント当日、もう何度もやって来ている大阪だが、せっかくなので今日ばっかりは行きたいパン屋さんに行こうと思った。気合を入れて何軒か調べたが軒並み定休日だった。不思議とがっかりしなかった。また来ればいいや〜、と思った。

結局、イベント名の効果もあってか、イベントに足を運んでくれたみんながこぞってパンやら焼き菓子やらを差し入れしてくれた。加えてフードの出店もあり、その全てを心から美味しくいただけたことは定休日であったパン屋たちに感謝である。

それでも全部は食べきれず、パンでパンパンになったカバンとギターを背負って広島へ帰るあいだ、いろんなことを考えた。考えたけどやっぱり、カバンの中のパンが気になって、新幹線の中で食べた。本当に本当に、おいしかった。あやうく泣いてしまいそうだった。それが何の涙なのかよく分からなかったけど、とにかくいろんな人の顔を思い出しながら、私はパンを食べた。

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