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1999年の夏休み WOWOWプライムにて放映

 来る3/6(月)20時より、WOWOWプライムにて映画『1999年の夏休み』が放映される。
 同作は今からカレコレ30年以上も前に制作された作品。今回のOAは地上波では無いものの、それでも〇年振りの放映という貴重な機会となるようなので、個人的に是非ともご覧頂ければと思う。
 映画に登場するのは寄宿学校でひと夏を過ごす4人の少年のみ。上級生の和彦に想いを寄せそれが受け入れて貰えなかったが故にみずうみで自殺した悠。その夏、彼にそっくりな少年が転校生としてやって来るところから物語は始まる。同一人物である筈は無いのに、何故だか彼の言動は逐一死んだ少年のそれと符合する。4人の愛憎は交錯し、やがて夏の終わりが訪れる。

 萩尾望都『トーマの心臓』を下敷きに翻案した本作に於ける4人の少年。その少年たちを全て女性が演じる。少女が少年を演じるという事それ自体は決して他に例が無い訳ではないが、それが成功している作品は極めて少ないように思われる(飽くまで個人の主観です)。本作はその数少ない成功例の1つでは無いかと。といっても少年になり切っている、演じ切っているという事では無く、懸命にそうであろうとするものの、完全になり切る事の出来ないその切なさのような感覚こそが本作の醍醐味かも知れない。
 それによってタカラヅカとも違う少女漫画のような世界がそこには現出しているように思う。ジッサイ金子修介監督もそういう意図があったような事を仰っていたと記憶している。

 1988年公開の同作の舞台は1999年であるから、ちょうどノストラダムスの終末論が世間を騒がせていた頃、近未来ものとして描かれた訳である。でも2023年の現在から見ると、その世界は過去である。新しいけれどもレトロ…このちょっとしたparadoxも手伝って、独特の雰囲気を持った作品になっている。細部に亘る小道具等に注目してみるのも愉しいかと思う。

 同作は公開から30年以上を経た現在でも、多くのファンに親しまれていると聞く。その事実を受け、月光百貨店でも『2019年の夏休み』と題したオマージュ展を開催した事があったのだが、それについてはまた別項で。

 さて、夏休みのその日、寄宿学校へやって来た転校生の彼は、何者なのか。本当にみずうみで死んだ筈の少年なのだろうか、それとも…。もしそうなら、そしてそうで無いなら、彼の目的は何なのか。この機会に是非ともご自身の眼で確かめて頂きたいと思う。きっとひと夏の迷宮に入り込んだまま、永久に其処から出られなくなってしまう事だろう。約30数年もの間、本作の愛好家たちの多くがそうであるように。

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