薄っぺらで空っぽの安定

「安定」というものが尊ばれるようになって久しい。社会がグラグラして見える反動だろうか。個人的に安定は素晴らしいことだと思う。公共料金の支払いを気にする生活は惨めだし、明日無職になる可能性を意識していたら胃に穴が空いてしまう。

もっとも、世間でいう「安定」と僕の思う「安定」には大きなギャップがある様に感じる。

例えば公務員志望の学生、彼らの多くは念仏の様に「安定」だの「福利厚生」だのを口にする。(面接官の前では三日前に考えた行政のお題目を棒読みするらしい)
確かに、公務員になればある日突然肩を叩かれることはない。しかし、本当の安定とはクビになる可能性が低い職場にいることではない。

本当の「安定」とは特定の職場を辞めたとしてもすぐに再就職できる人材になることではないだろうか。(もっと言えば一切働かなくても不労所得だけで生きていけることが最強なのだが...笑)

僕の知人Aは新卒でメリルリンチに入った。(知らない人は調べてくれ)彼は安定なんて糞食らえと言い、出来るだけ金が稼げて、モテて、スリリングな仕事がしたいと言っていた。典型的な男性ホルモンが過剰分泌されているタイプの人間だ。(世間一般で成功者と言われる人間にはこのタイプがかなり多い)
残念ながら半年後にメリルリンチの職場から彼のデスクは消えた。しかし、その後地方銀行にかなり良い待遇で迎えられたらしい。10時に出社して17時に帰るらしく、よく飲みや麻雀の誘いが来る。

一方で知人Bは新卒で都庁に入った。多くの公務員志望の学生の類に漏れず、彼も安定した仕事をして親を安心させてあげたいと言っていた。彼は、入庁してすぐに入った部署の上司と相性が悪く、すぐに職場に行くのが嫌になった。うつ病を理由に休職や早退、欠勤を繰り返し、職場からの信頼は地に墜ちた。それでも彼はクビにはならない。なぜなら公務員だから。
彼は、何度か職場復帰を試みたが、その度に同僚や上司から刺さる冷たい視線に耐えきれずついに辞職してしまった。彼が再就職に成功したという話は一切聞かない。

安定を拒絶した男が安定を手にし、安定を何よりも求めた男は自分からそれを手放した。何とも皮肉が効いている。

極端な例を挙げた風に見えるが、どちらも社会では実にありふれた話だ。似た様なケースはおそらくごまんと転がっている。
公務員は確かに解雇されないかもしれない。しかしあなたが公務員だとして、部下や同僚にものすごく使えない人や病気がちの人など、普通の会社なら解雇される様な人がいたらどうするだろうか?おそらく仲良くはできないだろう。いじめのようなものに発展する可能性が高いと思うのは僕が歪んだ人間だからだろうか

勘違いされないために言っておくが、僕は公務員の仕事は素晴らしいと思っている。僕の友人にも公務員は少なくないし、実を言うと僕の親父は行政のそこそこ偉い人である。
ただ彼らの多くは行政に何かしらの問題意識を抱え、とてもポジティブに業務に向き合っている。「安定」はあくまでオマケだ。

これから進路を決める学生は、薄っぺらで空っぽの安定に飛びつかず、自分を磨いて本当に安定した人生に向かっていって欲しいと思う。

まぁこんなことを書いている私の職業がYouTuber(不安定筆頭)というのが一番皮肉なのだが。