ちょっとお茶に、、。

 夏休みの宿題に描いた絵のように、ずんずんと背が伸びる百合の花たちを見守っていた。
「わあっすごい。「花の戦士たち」みたいですね。」。
どこか凛々しい品格の百合たちは白い仮面をつけた王族のようにも見えた。私は舞楽の蘭陵王の舞を思いだしたりもする。
 古代中国の蘭陵という国を治めていた高長恭という王様のこと。戦場に彼が現れると、兵士たちが、その余りの美貌、姿に見とれて、戦どころの騒ぎではなくなったという。そのために、彼はわざと醜い恐ろし気な仮面をつけて、出陣したという。
ひょっとしたら、この仮面の花の兵士たちのなかに、かの蘭陵王が混じっているかもしれない。
ある午後、玄関わきの庭に並ぶ、花の兵士たちに異変が起きた。
一番、背の高い兵士から順に、仮面をはぎとられて、地面に倒れ伏していた。花首の一部が無惨に散らばっていた。
「ちょっと、お茶してくる、、」と言った気軽さで、お猿のすみれちゃんが、庵の庭へと下りて来た。
「あれ、あれ」とながめていたら、勝手知ったる足取りで、玄関の庭の方へと曲がっていった。その後の異変である。
仮面の下の百合の蕾はどんな味がしたのだろう?味よりも香りかもしれない。いや、それとも?
「ちょっとお茶を、、」というわざらしい物腰がとても気になる。まさか、女暗殺者として、蘭陵王を探しにきたわけではあるまいなどと。

ひとさじの蜜の誘ふ眠りなれ右近左近とふ蒼き孔雀の舞
睡蓮のむらさきかすかな音を生むこの午後も人を想いだすなり
寂莫と海面は続く神の降るまさをなる伝承ここにたゆたふ
嘴は仄かに梨の香の満ちて夕べの鳥は薄きしろがね



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