ひな祭りの歌

今日は朝から雪が舞っている。迷っていたがお雛様をだした。雪景色のなかで、ぱっと華やかな色彩が匂いたつ。
天窓は雪に覆われているのでほの暗く、今年も雛の顔はどこか翳りを帯びている。木目込みの立ちびな。綾織のひなの絵、ハマグリを古布でくるんだふくよかで愛嬌のあるもの
漆の大内雛。五条坂の陶器店で出会ったモダンな陶板のお雛様。古布デザイナーの手になる、巾着袋を裏返すと緋の毛氈になる巾着ひな。古布で作った三人官女つきのうさぎのお雛さまだ。始め男雛が見当たらなかったので、アマゾン国の雛飾りかと思ったら、袋の隅に隠れていたのを見つけて、可笑しいような、ほっとしたような気がしたものだった。
それにしても、まるで、図ったように、それぞれ、異なったかたち、素材のものである。
 立派な木目込みの立ち雛は、去年亡くなった叔母が五十数年も前に作ってくれたものだ。口元に浮かべる微笑みは、楽しい記憶が思わずこぼれそうな、明るかった叔母に似て優しい。
 吊り雛飾りで人気な京都のお寺でのこと。いつも気になるひな人形がある。時代は古いものだろうけれど、清楚な知的な感じの女びなと若々しく気力に溢れた男びなの組み合わせである。どうしてなのか?その二人の間に陰険な笑いを浮かべた大臣風の老人が座っている。右大臣か?左大臣か?
「何故、この人はここに座っているのよ」
他人事とはいえ、私は憤慨して、毎年、目につくたびに、その老人雛を隅に動かしていた。(飾る方も懲りないけれど、動かす私も凝りなかった。)

 今年も、飾り終えたひな人形を前に「ひな祭りの歌」を四番まで歌った。あの京都のお寺で、嫌味な笑いを浮かべた大臣を間において、今年もあの雛人形たちは座っているのだろうか?

ひなの眉不老不死の哀しみの二月蝋梅の香の沈黙
古びなの暗き眼が追ひゆくは白澄み渡るまひるの蝶なれ
春の闇静かなる闇まむかひて回顧癖なき雛の面なる

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