蒼き背反

 台風の夜、二階の仕事部屋の窓を激しく叩く音がした。妙に底光りする嵐の闇を背景に、松の古木が魔女のように唸りながら、骨ばった腕を振り上げて窓ガラスを叩いている。
眠れぬ夜が明けた。庭に出て驚いた。
 松ぼっくりだけを鈴なりに着けている枯死寸前の老木が、屋根に直撃するのをおさえている櫻と楓、二本の若木たち。
大島桜が黒いしなやかな体躯を弓なりにして右脇を、青葉の美しい楓の若木が、左脇をしっかりと支えているのだ。私はこの若衆たちのとっさの機転と、今も続くその辛抱に感動している。そして、ヤキモキしている。
隣の敷地からの侵入なので、私にはその倒木を動かせる権利がないということである。なんと不自由な人間世界。
記憶より前の風景恐竜の背に吹雪ける花びらのこと
こは夢のゆふぐれなれ李朝の白き壺ものがたる蒼き背反


眠れぬ

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