砂師の娘(第十三章お前は何者?)

岩ばばはチーズを包んでいた黄色の紙を頭に巻いた。
「よし、これで、忘れっぽいわてでも、今一番にせなならぬことを思い出せる」
岩ばばはしんさまとゆうに向かってうなづいた
「姫たちがともかく、ここにおることは、運がよかった。この入り組んだ岩城のなかで、人を探すのは一苦労じゃ
いま、この塔の部屋にお城の若様とわてが居ることを教えたのは、しばらく、この部屋に籠ることを考えたからだよ
そうなると、これだけの人数が居るのだから、食料のことと、水のことがあるが、この部屋には、ほかの岩城とちがって、水の補給の心配がないことだ。それはこの部屋に入った者しか知らない大切な秘密だ。
 普通なら、お城の坊ちゃんたちが、ここに居ると言うことを知らせたら、なにも後ろ暗いことがないのなら、祭司長自らが、大喜びでやってくるだろう、もったいぶった奴だから、ひどく長いお説教などをするだろうがな、、
だが、気に入らないのは、お城の坊ちゃんの持ち物を、わての部屋に持ってきて、あたかもわてが、坊ちゃんたちの行方不明に関係あるみたいに、みせかけようとしたこと、、
それに、お城の兵士たちをよこして、まるで、わてを罪人のように、お城に呼び寄せようとしたこと
なにかがおかしい、、」
岩ばばは、ふしくれた大きい手で、頭をガンガンと叩いた
「城の者でも、ほとんどは、坊ちゃんたちの顏を知らない。それにこの岩城のばばの所に来る途中で、大怪我をしたという理由で、部屋に閉じこもっていれば、誰も替え玉に気が付かないだろう
その間に、いったい坊ちゃんたちがどこに行ったのかを探し出さねばならん。一体、どこへ行ったのだろう。」
岩ばばは又、自分の頭を激しく叩いた。
「それで一番、変なのはカルラとカケルが、なぜ岩ばばのところに来たと思われたのか?、、」
いつのまにか、しんさまが岩ばばの前に座って、相槌を打った
「それが、わての一番、心配していることさ。あの坊ちゃま達は、城のなかで暮らしているとはいえ、ほとんど閉じ込められているにひとしい。あの祭司長はお守り役兼教育がかりということだが、頭が四角四面の厳しい男で、余裕ということのない男だ。わてはあほなもうろくばばあということで、気を許したのか、坊ちゃんたちに会うことが出来たが、それもここ数年のことさ。」
岩ばばはカルラたちのことを思って、泣きだしそうになった
そこで、はっと顔色を変えると、しんさまの肩を掴んで、激しく揺さぶった。
「カルラとカケルだと?お前は何故、二人の名前を知っているのだ?」
まわりの者は岩ばばの年を取ったこわばった身体から、激しい火花が散って、しんさまに掴みかかったように見えた。だが、次の瞬間には、しんさまが涼しい顔で、同じように静かな姿勢で立ち、ただ、すっと伸ばした手で岩婆の腕を掴んでいた。
「いて、いてて。なんやこれは、放せ、はなせ。腕が折れるやないか。」
岩ばばは恐ろしく顔をゆがませて、しんさまの手を振りほどこうとした。
「お前はいったい何者だ。仮にも、岩族の身内に向かって、こんな乱暴をふるうとは、、、」
「まあまあ、岩ばば、元はと言えば、お前さんの間違いからおきたことだよ。このしんさまはお城から、たまたま来ていた「ためし人」だよ」
砂師の師匠がくすぐったそうな顔つきで、岩ばばに言った。二人のやり取りを見守っていた少年たちもうなづいた。
ゆうがそっと岩ばばの前に出ると、うつむいて小声で言った
「おばばさまの探していた子供というのはわてです。」
「あれ、まあ、まあ」
岩ばばは大きく見開いた目でしんさまとゆうをかわるがわるに見比べていたが、笑い出した。
「まあ、今一つ訳が分からんが、一人が二人になって、わては結局、なにも損をしたわけではないなあ
よし、わかった。わかったから、手を放してくれ。」
「今はカルラとカケルの行方を捜すのが肝心です。それ以外の詮索はやめてください」
しんさまの物言いは、低く静かだったが、聞いている者は、ふと、岩ばばに同情したくらいに、ようしゃのない冷たさがあった。
「しんさまの考えでは?」
砂師の師匠のもの言いに込められた尊敬の響きは、これからのこの場の取り決めは、しんさまにゆだねようと言う態度であった。
「ひとまずは岩ばば様の計画通りで行きましょう。其の間に、こちらも二人の行方を捜さねば。この部屋を足場にすることは、私も賛成です。とにかく急ぎましょう。」
いっぺえがカケルのものだと思われた持ち物の中味を広げて見せた
カケルがいつも齧っていた香木の包みを見たとき、、しんさまの目がやさしくうるんだ。赤い火の石、固いチーズ、かじりかけのしなびた林檎
「この荷物をみるかぎり、どこかに出かけていくつもりだったと思えます
この火の石は城の儀式に使うものなのに、、どうしてカケルは持っているのだろう。あら、これは、、、」
しんさまは少し焼け焦げのついた布にくるまれた一握りのいり豆を見て、急に黙り込んだ。
岩ばばは、不意に黙り込んだしんさまの気持ちに頷いて言った。
「そうだ、これは火矢で出来たこげあとだよ、、後ろから射かけられたんだ。そして、この火矢を使うのはお城の、祭司長のまわりの兵士たちだよ、、岩こぞうのような玩具とは出来が違う、あたれば命とりだ」
いっぺえが重く、頷いた。
「そうか、この矢のあとは、袋にも一杯ついていたぞ
俺、中味を入れ替えるときに気が付いたんだ。」
(第十三章終わる)











えいてて


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