栗の渋皮煮

栗の大好きな隣人がいる。雑木林を長く間においた所に住む木工作家である。家のそばに何本もの栗の木を育てている。もとは気に入りの丹後の栗の実から育てて、今は家を越えるほどの大木にしている。毎年、まずは青い毬から、とれたての栗を頂く。
 これは秋のめぐみの皮切りとなって、私はいそいそと栗ご飯を炊く。
そして、ある日、口笛を吹きながら、隣人が満面に浮かべた笑みと共に、今年も栗の渋皮煮を届けてくれる。私はそれが嬉しくて、無事庵の客の誰彼にふるまってしまった。明日はこの渋皮煮を楽しみにしている人が来るというのに、空っぽの瓶が残っているだけ。やんぬるかな。私も渋皮煮を作ることになった。味の出来より、見た目を気取ることにした。美濃焼の鼠地の皿に青いもみじの葉をのせ、そこに渋皮煮を二個ほど。その上にひとつまみのザラメのお砂糖をきらきらと振る。
「お銘は「初霜」ですの」とちょっと気取って。やはり自分でつくると気合いが違うものだ。
天飛ぶや雁のつばさの覆羽の何処漏りてか霜の降りけむ
栗の渋皮煮
気に入りのジャズピアノなどをききながら、何故かモンクのピアノが皮むきには合う。心を平らにして、渋皮をきずつけないように、そっとそっと鬼皮を剥く。灰に熱湯をかけて、その上澄み液で栗をゆでる。ここではとにかく辛抱をして弱火でゆっくりとゆでる。びっくりするくらい赤黒いお湯になるところから、栗を掬いだして水を捨てる。ついでにくっついている筋などもとる。新しい水で、叉、ゆっくりとゆでる。中味が柔らかくなるまで。あとは栗より少し少なめの砂糖を入れて、良い香りがするまでまた、ゆっくりと煮上げる。塩を一つまみいれて、味をしゃっきとさせる。出来上がりです。このときに、渋皮の剥がれたりした栗も一緒に煮て、それは干しぶどうなどとケーキに混ぜこんで使う。

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