風の召人

 秘密というものは守るのが本当にむずかしい。いったい私はどのくらい秘密を抱えて生きているのだろう?十一月、インデアン・サマー、晩秋の一日。ふと胸の中に溜めている秘密をとりだしてみる。まだ触ると栗の毬のようにチクチクと痛む秘密。うっとりと抱きしめてみる甘やかな秘密。今では笑いだしたくなるような失敗だけれども、まだまだ、人には知られたくない秘密。
 この七日間、こっそり守ってきた幸せな秘密もある。この秋、突然に野菊のひと群れが庭の片隅に咲いた。薄紫の貝細工のような花が咲いた。風が気紛れに運んできた秋の少女たち。北風に招へいされてやってきたのだろうか?。
 胸の奥深く、永久に取り出すことのない秘密もある。それは私自身も知らない女の魂の秘密。母のそのまた母の、太古の母たちから続く言葉の輝き。生きていくことの苦しさにあえぐときも、静かに凛と心をなだめてくれる香玉のように美しい秘密がある。

はじめなくをはりもなくて母といふ家系図の上をふじいろにつながる
素描終へたる風の行方冬かくの如く輝きて無言

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