無人島のお茶会
「この飲み物は、昔の中国のお話に出てくるような桃の実と森の中の泉に湧く炭酸水を混ぜて作ったものよ。このお菓子は森の木の実を砕いて粉にして、焼いたものなの。冷たく冷やした葡萄と白薔薇のソースをかけて召しあがれ。難破船から、持ち出したスモークドサーモンの薄切りもあるわ。このポテトは小粒ですけれど、島のはずれの荒れ地で出来た美味しいものなのよ。こんな無人島のお茶会に、あなたをお呼びするなんて、相変わらず無茶な奴だと思うでしょうね。」
無人島で暮すというのは、私の子供の時からの夢だったのよ。昨夜の満月を見ていたら、あなたをここにお呼びしたくなったの。」
「ロビンソン・クルーソ」が私の愛読書でした。私の宝物箱には無人島暮らしの必需品が一杯。
「磁石(初めて磁石の針が北のみを指すと判ったときの興奮。)
マッチ、(本当は虫メガネを利用して、太陽光線を集めるというのですけれど。夜や雨の時を思ったのです。)
コルク栓のついたガラス瓶(当然、助けを呼ぶためのメモを入れ、海に流さなくては)。
(そうでした。編み物も出来なくては、草の蔓を編んで、物を運ぶ籠もつくらなくてはいけない。森に生えているきのこや、食べられる植物を見分ける知識を持たなければいけない。やはり、友達がいるかも。いつのまにか?この人と無人島で暮せるかどうかを考えるようにもなったわ。)
見渡すかぎりの大海原、今、太陽が黄金色の壮大なタッチで、空と海を一つに染めている。遠くへ帰るあなたを見送りながら、私は砂の上のカレンダーに今日の日付の一本を書き足す。
見上げると空に大きな月が浮かんでいる。
私の無人島はこの国の地図にはない。
八月の森なることに許されて合歓の花うすうす死者とそよぎあふ
底知れぬ蒼空の奧非在なるものゆれゐたる薄き風の輪郭なる
ものなべて澄み透りゆく夏空にプラトンに似たる雲の横顔
転生の後は虹となる夕光り淋しきもののみ追ひゆくかたち
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?