夏の終わり
戸籍住民課の窓口の女性は、申し訳なさそうに全部事項証明を差し出した。
「お父さんとは長いこと連絡取ってなかったんですか?」
「はい。母と離婚してからなのでかれこれ30年以上会ってないし、連絡も取ってないです。」
「そうなんですね……。」
《除籍ー死亡ー平成28年7月27日》
素早く要点を読み取り、支払を済ませ、逃げるように区役所をあとにした。
空を見上げると9月の終わりの太陽は、私の体中の汗腺という汗腺すべてから一気に汗を噴出させるかのように空に存った。
31年前の9月、父と最後に交わした言葉を思い出す。
「誰にメシ食わしてもうてると思てんねん!」
「お前にメシ食わしてもうてない!アタシらはお母さんに食べさせてもうてんねん!働きもせんと何ダラダラしてんのよ!今すぐ出て行けーっ!!!」
高校1年生の9月。人生最大の罪を背負うことになった。
区役所から地下鉄の駅までの道のりが遠く感じる。力なく自転車を漕ぐ初老の男性。前かごに買物袋、後ろに幼い子どもを乗せて家路を急いでいる風の若い女性。車のクラクションがけたたましく鳴り響く。
会って一言謝りたかった。父に許してもらう機会はなくなってしまったのだ。
自分の誕生日を盛大に祝ってもらった翌日に父親の死を知るなんて。これも人生のシナリオどおりだというのだろうか。
9月も終わりだというのに外は真夏の日差しだ。真夏の日差しだというのに私は震えが止まらない。
「ちょうど2ヶ月前だったんだ……。」
今朝、玄関の盛り塩が溶けていたのを思い出した。