とみーはピンクを着るのが好きだった

とみーは2歳のとき、父親の仕事の関係で、東京からカナダに引っ越し、学校に通い始めるまでの3年ほどをそちらで過ごした。そのころとみーはピンクが好きだった。理由を聞くと元気に答えた。

わくわくするから。かわいいから。

明るい色が好きな子だった。
ぴんくが好き。黄色が好き。空色が好き。黄緑が好き。
とみーの世界は、楽しくて、明るいかわいい色でできていた。

なのに男児の衣類には、ピンクのものが全然なかった。3歳のとみーは悲しい顔で質問をした。なんで男の子の服はいつも暗いの?

言われて見渡すと、確かにとみーの言うとおり、紺、茶、黒、そして灰色と、暗めでクールな配色が多い。少なくともそれがシンプルで安価な男児用衣類の、2010年カナダの当たり前だった。それがとみーは悲しかった。彼にとっては、冷たい、暗い、悲しい色で、そんな服着てわくわくはできない。新しい服を探す度、とみーはちょっと気難しくなり、キャラクター付きの衣類を選んだ。

その頃とみーはアンパンマンが好きだった。ある日、スカイプで日本に住むおばあちゃんがとみーに言った。何か日本から送ってほしいものはあるかな。
とみーは即答した。アンパンマンの服。ピンク!
おばあちゃんは、とみーの言葉にたじろいだ。

えー! 探してみるけど、男の子もんでピンクはあるかなあ……

だけど、おばあちゃんは探した。絶望しながら探し続けた。買い物に行くたび、あちこちのぞいた。

だけど、ピンクのものにはフリルがあった。そもそもピンクの服には、女の子キャラが付いていた。キラキラしていた。ヒラヒラしていた。中性的なピンクとは、子供の世界にあっちゃいけないかのように。
おかしな話だ。大人になれば、ピンクのYシャツを着こなすおしゃれさんはたくさんいる。たかが色なのに。大人の発想の貧困さったらないだろう。日本全国、1億人よりたくさんいるのに。

めげずにおばあちゃんは、日本中しらみつぶしの勢いで、アンパンマンの衣類をあさった。
そして、見つけた。男児用とも女児用とも指定されていない、ピンクのトレーナー。真ん中に、アンパンマンが笑ってる。
おばあちゃんはこれ以上ないくらい得意げにこれをとみーに送った。
とみーは嬉しい悲鳴をあげ、それからこのトレーナーはとみーのお気に入りになった。


とみーが5歳半のとき、家族はまた引っ越すことになった。今度はイギリス。また新しい国。不安がたくさん。そこで、ママはとみーに言った。新しい家では、二段ベッドにしよう!
とみーは、きらきらの笑顔を見せて、さっそく未来の自分のベッドの絵を描いた。

明るいかわいい色があふれたベッドだった。枕とシーツと、全部違う楽しい色。そして、とびきりかわいい毛布がかかっていた。
黄緑の地に、黄色のポルカドット。

だけど、いくら探してもそんなかわいいリネンは売っていなかった。子供ものといえばキャラものばかり。
だからちょっとずつ妥協して、黄緑のシーツに白い枕カバー、赤のチェックの掛け布団になった。とみーはそれもなかなかいいよ、とにっこり笑った。

毛布だけはどうにかしようと、ママはひたすら探しまくり、ようやく一点、ネットで見つけた。
水色の地に、黄色、緑、ピンクのポルカドット。
ママがパソコンで、その写真を見せた途端、とみーは、顔をパッと輝かせた。
これがいい!
その毛布はとみーのお気に入りになった。


とみーは大きくなった。そしてシックなかっこいい白や黒のシンプルな衣類を楽しむ男子になった。

さて、そんなとみーがデザインすると、どんな衣類やインテリアになることか。
ぜひともデザインしてほしい。
この文章の下に、そのうちリンクを貼りたくてこんな文章だけ書きました。

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