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今日は、ゆっくり歩いて帰ろう。

ああ、お金持ちになりたい。
スマホが欲しい。いちばん新しいのがいいな。
クローゼットに入らないぐらい、いっぱいの服が欲しい。
家事ロボットが欲しい。
いつか、LAに住んでみたい。

昔はそんな風に思っていた。中学生ぐらい。
なのに、いつからかそんな風なのが、すごく嫌になった。

いつまでも紙でノートを取っていたい。
好きな人と、手紙を交換をしたい。
帰り道は、少し遠回りするぐらいがちょうどいい。
いつまでも、愛おしい人たちとコタツを囲んでいたい。

お金があればあるほど、便利であればあるほど、いいんだと思っていた。

それは正しいのかもしれない。お金がないと何もできない。便利なものは、時間を節約してくれる。その分、たくさんのものを生み出せる。

でもそれでは、いつかわたしは、わたしじゃなくなってしまう。そんな気がする。

それをなぜか、便利で、人もものもたくさんで、あちこちで英語の飛び交うこの街に来て、思い出した。

いつも何かが起こっている。便利できらびやかで、毎日違う色が見える。面白くて、飽きない。それを求めて、大学はこの場所を選んだ。

一緒に育った人や、育ててもらった人たちとは離ればなれになってしまった。でもここで、大切な人が、大切にしてくれる人が、もっともっと増えた。

それなのにわたしは、ここにいたら何か大きな渦に巻き込まれてしまいそうで、いつもちょっと、こわい。

「なんでこんな遅いんやろ。ことことして。もっと速かったらすぐ着くし早起きせんですむのになぁ。」

昔、同じ路線の友達と、帰りの電車でそんな愚痴を言いながら、今日あったことや困ったこと、好きな人の話をしていた。先に降りる友達に「また明日ね」と言って、電車の中でゆっくり本を開いた。

今、駅から家は、ちょっとだけ頑張る距離。
いや、結構頑張る距離。
でもその分、自然に囲まれている。

今日は、ゆっくり歩いて帰ろう。



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