ブランクボックス3

 黒い鷹、ブラックホークと呼ばれる男がいた。赤い大地に生まれ、赤い肌を持つ一族であった、一族の中では『嵐を飛ぶ鷹』と言われていた。
 その名前の通り幼い頃には気性が荒かった。気に入らないことがあれば、ただちに殴りかかり、暴力で解決しようとした。
 親どころか一族の大首長でさえ彼を持て余した。しかし、時代は彼に味方した。遠く大陸の彼方から白い肌をした一族が、文明という巨大な武器を持って彼らに襲いかかってきたのだ。
 戦士には力が必要だ、と彼は大首長に教わった。そしてお前にはその力があるのだと。それは肉体的な力だけではない。精神的な力こそが戦士を戦士たらしめるのだと。嵐の中を飛ぶ強さを持つ者が戦士と呼ばれるのだと。
 彼はその戦士たる資質を存分にいかし、白い文明と戦い続けた。年若く肉体的にも精神的にも人間の最盛期たり得る彼の力は白い文明の脅威であった。
 さもありなん、文明という武器を手にして戦う白い文明の戦士たちは、彼にしてみれば戦士ではなかった。
 確かに銃と呼ばれる武器は、圧倒的なまでに強力である。力なきものを兵士に変え、荒野という戦場に嵐を呼ぶ。
 だが彼は嵐を飛ぶ鷹である。幾百、幾千の凡庸たる兵士たちが荒野を嵐に変えようともそれを切り裂き飛ぶのである。真の戦士たるものは自分しかいないのだ。
 大首長や一族が例え白い文明の前に膝をつこうとも自分だけは空高く飛び、勝利を手にするのだと。
 決して諦めず粘り強く執拗でいて、いかなる銃弾も畏れず、血を流しても立ち上がる、その鬼気迫る戦いぶりから、彼はいつしか敵味方問わずブラックホークと呼ばれるようになっていた。
 何百という戦いの最中、彼と対等たり得る戦士は敵にも味方にも存在しなかった。
 だが、彼は白い文明の中においてただ一人出会うのである。
 それは戦士ではあるが兵士でも無法者でもなかった。
 彼は牧師《プリーチャー》だった。
 ひどい嵐の日だった。と黒い鷹は言う。
「俺が、やつと、もう一羽の鷹と出会ったのは。ウィリアム・ホークと出会ったのは――」

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