ゴリラのひと節
夏休み前の平日休暇
茹だるような暑さ本番直前の午前、おおむね四半世紀ぶりとなる京都市動物園への訪い。
目的はゴリラのモモタロウ。
類人猿研究が有名な京都大学の影響で、この古くて小さな園は、ゴリラ研究の最先端を担っているのだ。日本で二番目に歴史ある動物園の、絶対的スターが彼である。
私(サピエンス)と類人猿は、ほぼおんなじ種族だと認識している。少なくとも、犬や猫やインコと比したら、どえらく近い。宇宙から俯瞰したら地球人は、チンパンやボノボの派生だろう。
さて、目当てのガラスの前。モモタロさんは、どっしりと眼前に座を構えていた。時おり草の茎などしがみつつ、ガラス越しの有象無象の好奇の視線に向き合うでも、スカすでもない。もはや、路傍の石よりどーでも良さそう。
しかし、美しい。
黒光りする顔面と瞳の輝き。
峻険な高山の如き頭頂部。
肩から上腕、拳までに至る、
まさに筋骨隆々のライン。
貫禄に満ちた腹回り。
そして銀色の逞しい背中。
存在の圧倒的な生命感に感動する。その質量にどんな感情が秘められているものやら、不毛と知りつつも伺いたくて、しばし呆然。モモタロさんは変わらず落ち着き払い、超然とした風情。
ふと、ドラミングしてくれへんかなー、などと期待する私。すんません、失礼な事かんがえてもうて。あんなもん、イキった小僧のすることですわなー。と、その刻。モモさん唇を尖らせて、短く歌った。
ぽーーぽぽぽぽぽぽぽぽー
心地よい高音。ファルセット。巨軀からは想像もつかないソフトな歌声と、牧歌的なメロディ。
あかん、惚れてまう。ヒトと親戚みたいなもんやから、ほんまにやばいわ。以来、モモタロさんのひと節に、半月以上も癒されているのは、私です。
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