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◆◆火事の後初めてムガルカフェに入る◆◆

火事から2日。

消防署から立入りの許可が下りたので、火事の後初めてムガルカフェへ行ってみることにした。

やらねばならない事が山積みでそのひとつひとつをクリアーしていく事に必死だったから、立入りの許可が下りるまでの2日間はあっという間だったけれど、それでもムガルカフェのお店の中の様子がどうなっているのか、何度も想像をした。

お店の中は燃えているのか、消火活動の際の放水による水浸しの状態なのか、なにか無事なものはあるのか。

胸がざわざわするのを感じながらムガルカフェへと向かっていたけれど、お店から約50メートル離れたところまで来たあたりでハッとした。

まだムガルカフェそのものは見えてもいないというのに、焦げ臭いが風に乗って漂って来る。それはお店に近づく程にどんどん、どんどん強くなる。

火事が起きた建物のご近所に暮らす方々は、この怖くて暗い気持ちに引っ張り戻すような焦げ臭さが漂うたびに火事のことを無理矢理にでも思い出す時間を過ごしたのかと思うと、何とも言えない気持ちになった。

そんな事を考えているうちにムガルカフェに着いた。

そこで、思わず深いため息がこぼれた。

出火元となった二階大家さんの住宅と八百屋さんだった一階店舗は、見渡す限り真っ黒に焼け焦げていて、一階の入り口付近に焼けた沢山の物がめちゃくちゃに積み上げてあって、その中に大家さんがよく着ていた服の切れ端が見えて、悲しいやら切ないやら、お腹の中がグッと重たくなるのを感じながら、亡くなったご主人に手を合わせた。

一方で、まる焦げになった大家さんの一階店舗と壁一枚で隔てて隣り合わせだったムガルカフェは、外からの見た目同様、なんと中もほぼ焼けていなかった。

ただ、激しい消火活動で長時間大量に放水され続けた為に、ふやけて限界を迎えた天井があちらこちら抜け落ち、機械やキッチン設備は水没、一見生き残っていそうなものもまた、煙に含まれる細かい塵と、何より強烈な焦げ臭さが隅々まで付着してしまって、壊滅的だった。焼け焦げて無くなるのも悲しいけれど、ついこの前まであった姿のままで息の根が絶えたようなムガルカフェの中にいるのは、やっぱりとても悲しかった。

暗い店内を見渡すと、ムガルカフェで何かやるたびに集まっては楽しんでくれていたお客さん達や仲間たちの姿も思い出す。

仲間たちと描いた大切な壁の絵も、一見生き残っているように見えて、煤が混ざった水を浴びて壁紙がぶよぶよになっていて、また、ため息が出た。

火災保険の会社による現場の被害状況確認作業はまた別で後日にあるので、それまでは極力触らないようにしなくてはいけないと言われているし、抜け殻みたいになったムガルカフェを確認したし、今日のところは帰ろう。

そう思ってお店を出ようとした時にふと入り口付近のガラス窓に目をやって、ハッとした。

窓に張り付いた、2枚の小さな「ナン」。(正確には、私が紙粘土で作ったナンの形のメッセージカードみたいなもの。ムガルカフェでは、ナンにまつわる色々な手作りアイテムでお客さん達と遊ぶことがよくあったのだけど、それ関してはまた別の機会に触れたいと思う。)

青木真也さんが初めてムガルカフェに来てくださった日に、「オレたちはファミリーだ!!青木真也」と書いてくださったナンと、街をこよなく愛する、温かいコミュニティ作りの大先輩達が集まった日に飾った「ノーストーキョー×コミュニティナース」と書いたナン。

紙粘土で出来ているにも関わらず、この2枚が生き残った。

湿っていて、煤でくすんで、焦げ臭くはなっていたけど、涙が滲むのを感じながら呟いた。
 
「へへへ、スモークナンになっちゃった。」

壊れないようにそっと窓から剥がしてそれだけ持って帰った。 

それからさらに3日後に火災保険の状況確認作業に立ち会ったのだけど、ひとつひとつ、被害の状況を丁寧な確認した担当者から告げられたのは、ムガルカフェは「貰い火による全損」という判断になるということだった。

煙と塵が立ち込める中で長時間勢いよく放水を受け続けた為、もしかしたらまだ使えるかもしれないと密かに期待をしていた機械も、細かい所まで煤が入っている為、使えないという判断ですと告げられた。

そうか。全部壊れちゃったか。

そうと分かったら、初めから作るという方に切り替えれば良い。状況がクリアになったんだから、前進だ。

そうして心のギアを入れようとした時に、火事からここまでの数日で初めて、カーンくんの心が折れた。どうしたどうした、カーンくん。

続きます。

余談だけど、青木真也さんと初めて出会った日はムガルカフェで、海外にいる大好きな彼女に恋煩いをしている、森本くんという青年の「恋煩いを笑い飛ばす日」という集まりをやっていて、こんなナンも作っていた。

みんなでワイワイ、恋煩いの話は割とそっちのけで楽しく過ごしたような気がする。

また、青木真也さんのナンと一緒に生き残ったナン「ノーストーキョー×コミュニティナース」の皆さんとの楽しかった時間も、ここに残しておく。みんながそれぞれの分野で、優しくて温かい街を作ろうと今も力を合わせている。

良い笑顔がいっぱいだ。また会いたい。

...余談が長い。余談が大好きだ。続きます。

最高に美味しいビリヤニと温かい笑顔が集まるムガルカフェをもう一度作ります。応援よろしくお願いいたします!