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【ムガルカフェが火事になりました】

2020年1月14日。豊島区駒込にある商店街で本物のインド料理、本物のビリヤニを提供しながら、地域のコミュニティとしても愛していただいていたムガルカフェが火災によって営業停止になりました。出火元や火事の原因はまだ調査前なのでここで書くことは出来ませんが、建物全体の損傷はかなり激しく、同じ場所での営業再開はまず絶望的な状態です。

この火災で、住宅店舗が焼失してしまった大家さんのご家族の中には亡くなってしまった方がいて大変悔やまれますが、ご冥福をお祈りするばかりです。

【これからどう生きる。火事の日から始めてみる】

二階部分が特に見るからに真っ黒こげで、消火作業によってどこもかしこもびしょ濡れの建物を見ると、気を抜けばため息をついてしまいそうな気持ちにもなるのですが、幸いにも怪我もなく、今すぐに動くことの出来る身体があるのだから、気持ちを切り替えて、この状況で生き抜く為の作戦を立てることにしました。家族やムガルカフェのシェフさんたちが失業したと絶望せずに日常を取り戻して、いつかムガルカフェが再建できること、それがまた、お世話になった大家さんや、もしかしたらまだ見えてきていないだけで、例えば激しく立ちのぼった煙や炎の激しい熱波、消火活動の放水などによって二次的な被害に遭われてしまったかもしれない方々に、私達が出来る事なんじゃないか。

「街の仲間として安心出来る日常が戻ってくるように、一緒に頑張ります」という想いを込めて、火事が起きたその日から、再建に向けた日々の記録をありのまま綴っていくことにしました。

文章を書くにあたって、言葉の稚拙さ、表現力の乏しさ、配慮の足らなさ、挙げてしまえば至らぬところは数えきれないのですが、怖がると何も始まらないので、甘えではありますが、汲み取っていただければ幸いです。

もう一度、最高に美味しいビリヤニと、家族の温かさを感じるコミュニティが共存するムガルカフェを再建する事を目標に。

◆燃える部屋の中にいる、まるたけさんの電話から始まった長い長い1日◆

いつも通りの朝7時。この時間の我が家の朝と言えば、とにかく賑やかでバタバタ。7歳の長女アミマと、2歳の次女アリーシャがそれぞれ小学校と保育園に持っていく為のお弁当を作りながら「早く顔を洗って歯磨きしちゃいなさーい!」とか、「トイレに座ったフリして寝るな、あみまー!」とか「立ったまま寝るな、あみまー!」とか、「いやいや、靴下履いたついでに寝るな、あみまー!」とか、何とか小学校に遅刻させまいと慌ただしく言葉をかける私と、超マイペースなアミマ、起きると同時にハイテンションでお気に入りのオモチャを引っ張り出して来て、最近人気の「パプリカ」を歌って踊る自由なアリーシャ。

そんな賑やかな声をものともせずに頭から布団をかぶって寝ている、夫でムガルカフェのオーナーであるカーンくんの携帯に、一件の着信が入った。

ムガルカフェの大家さんである「まるたけさん」から。

普段はこんな時間にまるたけさんから着信があることはまず無いのでザワッと胸騒ぎがした。そう言えば、こういう嫌な胸騒ぎがする予感は外れたことがない。

ついつい、カーンくんより先に私が電話を取るやいなや、今まで聞いた事の無い、悲鳴にも似たまるたけさんの声が一気に耳に飛び込んで来た。「今ね、家が燃えてるの!ごめんなさい!お店も燃えてるかもしれない!ごめんなさい!なにしろ、火が大きくて...怖い!とにかく電話を切るわね!」息継ぎもなくそう言ったきり、あっと言う間に電話は切れてしまった。

あまりの出来事にほんの一瞬時間が止まったように頭が真っ白になったけれど、「ヤバいヤバいヤバい!まるたけさんが今火の中にいるかも!ムガルカフェも燃えちゃうかもって!」寝ていたカーンくんを揺り起こす。

カーンくんは、えー!?って言いながら起きて、あっと言う間に家を飛び出して行った。

ヤバいヤバいヤバいヤバい!

私も、咄嗟に彼の後を追いかけそうになったけど、何が起きているのか分かっていない娘達を見て踏みとどまった。

ダメだ、この子たちを連れて行けない。

子ども達をそれぞれ大急ぎで送り出してから向かう事にしたんだけど、冷静なようで相当焦ってしまっていたのか、おにぎりの中にミカンをギュッと入れてしまいそうになったり、アリーシャに靴下を2回履かせそうになったりと、トンチンカンな失敗を連発しながら何とか娘達を送り届けて、一回深呼吸してからムガルカフェへと向かった。

◆建物が燃えていて、ムガルカフェはびしょ濡れ◆

脇腹が痛くなりながら急いでムガルカフェに向かうと、近づくにつれ、現場より随分手前の通りまで何台もの消防車がズラリ、給水ホースがあちらこちらからビヨビヨ伸びてはムガルカフェの方へ向かっていて、その数の多さが火事の大きさを物語っているようで、ゾッとしながら前へ進む。

現場に着くと、速報で流れていた映像で見たような真っ赤な炎はもう抑えられていたけど、まだまだ煙が上がっていて、焦げ臭くて、建物の正面からも上からも、あらゆる方向からどんどん水をかけていて、まだ消火活動の真っ最中だった。

わぁ、まるたけさん家が真っ黒に焼けてボロボロだ。なんてことなの...!

ムガルカフェは玄関付近は燃えずに残っているのが見えるけど、とにかくどこもかしこも、休むことなく丸ごと水をかけ続けられている。

ただただ目の前で繰り広げられている事を見守るしか出来ないけれど、この辺りから、ニュース速報を見たり、ムガルカフェの現場に住む仲間や友人から、LINEやメッセージ、電話がどんどん鳴り始めた。

そりゃあ、驚くよなぁ。ニュースの場合は特に、見た人がパッと理解をし易いようにしているためか、何となく1番大変なシーンだけが切り取られてしまう印象がある。しかも、当事者じゃなければ野次馬にならないようにとか、邪魔にならないようにとか、きっと色々配慮をした結果、恐ろしく炎と煙が上がるニュース画面を見ながら、知人友人が巻き込まれていないか、ただただ心配でキリキリしながら待つしかない。とても残酷な時間だ。安否不明の情報しかなく待つしかないって、とても辛い。

そう理解もしつつ、全てにお答えする気持ちの余裕は持ち合わせていなかったけど、パッと届いたメッセージにあった「ひとり逃げ遅れの可能性」という単語が目に入ってしまって、熱でグニャッと曲がって割れた二階の窓ガラスや真っ黒に焦げた壁を見ながら、安否が心配で絶望的な気持ちと私自身も戦っていた。

規制線の外、離れた路上からあわただしく行き交う消防士さんや警察官の動きや、立ち昇る煙を見ているしか出来なかった。

ここまでが、朝8:30くらいのこと。ここから予想だにしなかった流れになっていくのだけど、次の投稿へ続きます。



最高に美味しいビリヤニと温かい笑顔が集まるムガルカフェをもう一度作ります。応援よろしくお願いいたします!