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墓場のカラス

今日は死んだカミさんの19回目の命日である。仏様の年齢は俗世間より1年早く進むから、20回忌ということになる。本来ならば坊さんをよんで法事を執り行わなければならないのが、省略した。金もない。墓はある。立派な桜御影の墓が。借金を返済しないで墓に廻した。以来、娘二人とは揉めている。墓なんかで金遣うな。馬鹿おやじ。金返せ。わかった。でもさ、関心のない親戚と、ママの思い出を語るより、独りでこうやって墓でも綺麗にしていたい。確かに金もないが、あったところで、気持ち的には、ひっそりカミさんと墓で向き合っている方が楽しい。

墓園に行ったら、先にカラスが来て鳴いていた。

頼みもしないのに小石をくわえてきて幾つも並べてある。墓はカミさんが死んだ翌年に造った。カミさんが好きだった桜御影をつかった。その桜御影が、カラスの運んできた小石で汚れている。小石を掃きだし、何回も水を運んで墓全体を水洗いする。最後にはワックス掛けまでした。

見違えるように綺麗になった。

墓を造った頃株価は8000円くらいだった。いまは23000円くらいか。トランプが勝てば24000円くらいになる。

嘘である。不況が来る。恐慌になる。だって庶民は騙されて損することになっている。儲かるのは1パーセント。自慢じゃないが汗と涙の結晶が墓一個。墓しか残らない。なにせ。墓は資産じゃないからね。

また10000円くらいに下がる。当たるも八卦外れるも八卦。そういえばまだロトはあたっていない。人生なんてこんなもんだ。

経済なんてこんなもんだ。金融なんてこんなもんだ。

たぶん今後はもっと酷くなるだろう。世界中が欲に目が眩んだ金融バカボンに踊らされた。誰が悪人でだれが善人かも分からない。分からないように仕組まれた。だからみな騙される。賭け事と同じで、胴元しか儲からない。

胴元とは誰か。証券と金融機関だ。その胴元すら最後は大損する。山一がそうだ。他にもある。忘れた。

でも、メガバンクはさんざん国民に迷惑を掛けておきながら、累積赤字は償還できる税制上の恩恵を利用して、殆ど税金を払っていない。しかも公費注入である。それを正当化するための法律まで造る。錦の御旗はある。国民のために。世界の金融安定化のために。

ほほう。そうですか。

カラスが舞い戻ってまた鳴いた。私がいなくなるのを見計らって小石を何処からか運んでくるつもりだろう。せっかく綺麗にしたのに。いや綺麗にしてくれたから、汚し甲斐があるってものだ。カラスには。

まるで金融機関と国民の関係みたいじゃないか。

まあいい。どうせカラスも老いる。やがて何処かの森に飛んでいってそのまま老いて飛び上がる力もなくなるだろう。

生あるものみな老いる。老いて死ぬ。想い出を残して人は去る。

金融資本主義も、今後の破綻で、人間の歴史から見放されるだろう。今後は、どんな経済思想が人間を引っ張るだろう。MMTか。

がははは。

そういえばむかし失敗して凹んでいる私にカミさは云った。くよくよするな。キミに出会って勘違い結婚して。失敗したなと思ったけど。まんざら悪くもなかったよ。

貧乏はしたけど辛かったとは思わない。子供も育った。あたしたちの役目は終わったよ。あとはキミと長生きするだけ。

それで充分じゃないか。

なるほど。

でも肝腎のキミがない。俺様を置いて先に逝った。死ぬ半年蔵前、あたしが死んだら再婚してね。出来るだけ早く。面倒みる人がいないのも困る。そんなことをいった。再婚しなかった。金もないしその気もない。結婚は一回でいい。寂しくもない。最初寂しかったけど5年で慣れる。もう、20年だ。

墓は綺麗に磨き上がったけど。きっとあのカラスが来てまた汚すだろう。

でもいい。それがカラスの楽しみなら。

金融がどうなろうとカラスはカラスのの楽しみを見つける。

カラスは大儲けもないが大損もない。

 ぎゃ、ははは。

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満85歳。台湾生まれ台湾育ち。さいごの軍国少年世代。戦後引き揚げの日本国籍者です。耐え難きを耐え、忍び難きを忍び頑張った。その日本も世界の底辺になりつつある。まだ墜ちるだろう。再再興のヒントは?老人の知恵と警告と提言を・・・どぞ。