見出し画像

機動戦士ガンダム0085 #4 飛び立つ日 BELIEVE

登場人物

セイラ・マス  北米・ボストンの地元メディアで働く記者
アムロ・レイ  北米・ケンブリッジの大学の学生
ミライ・ヤシマ 元ホワイトベース操舵手でブライト・ノアの婚約者
ブライト・ノア 元ホワイトベース指揮官で現在は連邦軍北米基地に勤務
カイ・シデン  元ホワイトベース乗組員、UNNニュース特派員

リロイ・ドロアス  ジオン共和国・ズム・シティ首都警察 特任刑事
コーリン・ファレル 地球連邦軍北米基地に勤務する大佐でブライトの上官


 その美術館は、壮麗な宮殿を思わせるような石造りの建物で、内部もまた広大だった。リロイ・ドロアス刑事は開館時間にあわせて中に入ったが、古代エジプト、中世ヨーロッパ、印象派など美術史をたどる膨大なコレクションに見入っていると、時のたつのを忘れてしまい、約束の場所だった日本アートのギャラリーに入った頃には、もう時計は午後1時を過ぎていた。
 照明の明るさを抑えた、ほの暗い室内に、仏像の鈍い光沢が浮かび上がる。そこだけが、まるで時の流れる音が聞こえそうなほどに静かだった。
 彼はそのギャラリーの一角に展示された、いにしえのサムライが身につけたという甲冑に目を留めた。木箱に人が腰掛けているかのような形で置かれており、ヘルメットのように頭部を覆う兜は耳のあたりから首周りをぐるっと、美しく装飾された鍔のようなものが付けられ、後頭部をガードするようになっている。そして正面の額のあたりには、前立と呼ばれる角のように一対になった飾りがつけられている。肩、胴、腰回り、そして脛を堅固に覆う具足は、ただ防御のためとは思えない、美しく繊細な装飾が施されている。おそらくそこには、そのサムライの背負う「名誉」や「矜持」といったものが、表現されているのだろう。
 それにしても、とリロイは思った。どことなく、モビルスーツに似ているような気がするのは、気のせいだろうか。そんなことを考えながら、ガラスケースに入った甲冑を覗き込んでいると、その向こう側から、彼に向けられた視線があるのに気がついた。目が合うと、その赤毛の青年がにこっと笑った。
「リロイ・ドロアス刑事?」
「あ、ああ‥‥、君が?」
「アムロ・レイです」
 そう名乗ると、彼は展示ケースを回り込んでリロイの前に現れた。思っていたよりも若く、どこにでもいるごく普通の学生に見えた。とても、監禁されていた女性を救出し、モビルスーツを操縦して脱出するような芸当をするタイプには見えない。
「どうですか、この場所は?」
「ああ、楽しませてもらっているよ、スペースコロニーでは、こういう歴史あるものを鑑賞する機会がないからね。だが、ここで立ち話というわけにはいかないようだな」
「もし食事がまだなら、カフェでランチでもどうですか」
「ありがたいね」
 そう言うと、二人は館内のカフェに席を取り、食事をしながら話すことにした。


 他愛もない話をしながらひとまず腹を満たすと、アムロが切り出した。
「ジオンで起こったクーデターの首謀者を捜索しているそうですね。それで、僕に聞きたいことが?」
「ああ‥‥君はあのとき、セイラ・マス、ジオンではアルテイシア・ソム・ダイクンと名乗っていた女性を救出したと聞いている。彼女との関係は?」
「知り合ったのは一年戦争のときです。同じ<サイド7>に住んでいたのですが、そこがジオン軍に襲撃され、僕たちは避難民となりました。同じ船でジャブローまで行き、そこで終戦まで過ごしていました」
「ジャブロー、といえば地球連邦軍本部、だったな、確か? モビルスーツの操縦はそこで覚えたのか?」
「いえ‥‥」アムロは、口ごもった。「そういうわけではありませんが、そこを話し始めると長くなるし、本題から外れるので」
 リロイは頷くと、質問を続けた。
「なぜ、地球連邦市民の君が、彼女を救出することになったのだ? 彼女が危機に陥っていることを、どのようにして知ったのか」
「地球連邦軍のブライト・ノア‥‥大尉から連絡を受けました。彼は<サイド7>から避難したときの船の指揮官で、共通の知り合いです。といっても、軍とは関係なく、個人的に頼まれたという感じです」
「しかし、大変な事態だ。特殊任務といってもいいような。君は学生だろう? よく引き受ける気になったものだな?」
「それも、質問ですか?」
「もちろんだ」
 アムロは、少し困ったように目を伏せた。
「‥‥それは、‥‥彼女が、僕にとって大切な人だからです」
「ふむ」リロイは頷くと、携帯端末を取り出して画面に映像を映し出した。キャスバル・レム・ダイクンが搭乗していたといわれるモビルスーツが被弾した際の映像だった。
「この映像を見てほしい。右のモビルスーツはキャスバルが操縦していたといわれているものだ。左側から撃たれて右腕に被弾しているが、撃ったのは君か?」
 アムロは、その映像を凝視すると、言った。
「ええ、間違いありません。僕と彼女は乗った機体を放棄して脱出する必要がありました。連邦軍の救難艇がすぐそばまで来ていたからです。そこで、その動きをカモフラージュするために、あらかじめ搭乗機が自動操縦されるようプログラムし、脱出後に搭乗機があの機体を狙って撃つようにしておいたんです」
「それを、やったのか? 君が?」
「ええ‥‥、工科大学の学生です。得意分野ですから」
 リロイ刑事が、信じられないというように首を振った。
「搭乗機はコクピットに直撃を受けて、爆破されました。間一髪でしたね」
「なぜ、彼を撃たなかった? ‥‥キャスバル・レム・ダイクンを。君たちを、撃ち殺そうとしたのだぞ」


「理由は、二つあります。一つ目は、僕はただの民間人で、武器を使用したり、彼を撃墜する権限を持っていなかったこと。二つ目は‥‥」
 アムロはリロイ刑事の目をまっすぐに見て言った。
「彼は、セイラさんの唯一の肉親で、大切に思っている人だからです」
「そうか」リロイが、頷いた。
「彼は、生きていると思うか?」
「ええ、おそらく」
「どのように?」
 アムロは肩をすぼめた。
「わかりません。わかりませんが‥‥、あのとき、あの空域にはかなりの数の艦艇が出ていました。そのうちのどれかが、通信を受けて機体を回収していたとしても、不思議はないと思います」
 リロイは、カップに残ったコーヒーを飲み干すと、言った。
「君たちが共謀して、彼を逃したとも考えられる」
「それは違います」きっぱりと、アムロが言った。
「セイラさんがアルテイシア・ソム・ダイクンの名前で声明を出し、僕がモビルスーツを奪って彼女を連れ去らなければ、あのクーデターは間違いなく成功していました。あの人は、一年戦争時にはシャア・アズナブル、赤い彗星として恐れられた人です。総帥としてじっとしているよりも自ら動いた方が、危機的状況を逃れられると踏んだのでしょう」
 そして彼は、一つ自分から質問してもいいか、と聞いた。リロイは、頷いた。
「逃亡した彼の、何を恐れているのですか」
「ふむ」リロイは、腕を組んだ。
「グラナダには、ザビ家を信奉する旧ジオン軍人らが多数潜伏していると聞く。もし彼がグラナダに逃げ、そこでジオン残党に神輿として担ぎ上げられれば、再び動乱が起きる可能性も否定はできない」
「そうなんですか。でも、彼は担ぎ上げられるような人ではない、と僕は思います」
 ありがとう、話せてよかった、とリロイは言った。私はもう少し、この美術館を観て回るよ。アムロ・レイは、では、と頭を下げると、立ち去っていった。そのときにはもう、リロイは逃亡したクーデター首謀者のことはどうでもよくなっていた。それよりも、このクーデターを潰すことに成功した、ただの学生でしかない青年のことの方が、気になっていた。勇気と才能を持ち合わせた学生、というよりも、まるで手練の指揮官と話しているようだった。
 只者ではない。だが、一体何者だというのだ?


 いつものように仕事を終えてアパートの自分の部屋に戻ってくると、セイラはバッグをソファに放り出し、郵便受けに届いていた1通の手紙に目をやった。あの刑事と会う約束をした、と言っていたアムロのことが気になり早く電話をかけたかったが、手紙の差出人の方も見過ごせない。ブライト・ノアとミライ・ヤシマの二人の連名になっていたからだ。

 いよいよ、なのね。

 開封前に、はや封筒の意味するものを悟ったセイラは4年前、トーキョーで再会する際に彼女に贈りたいから、とブライトのプレゼント選びに付き合わされたことを思い出した。さすがに婚約指輪選びにまでは、駆り出されなかったようね、と思いつつ封を開けると、二つ折りのカードになった、結婚式の招待状が中から出てきた。日取りはちょうどクリスマス休暇にさしかかる頃だ。招待状にはミライの筆跡で手書きの手紙が添えられており、慌ただしい休暇の時期になってしまい申し訳なく思っていること、ただホワイトベースの仲間たちのことを考えると、そういう時期の方が集まりやすいだろうとブライトと相談したこと、結婚準備のために12月はじめに北米基地のあるノーフォークに引っ越して一緒に暮らし始めていること、などが記されていた。
 手紙をはさんで招待状を閉じると、セイラはアムロに電話をかけた。彼のところにも、同じものが届いているはずだ。ちょうどクリスマス前という時期、結婚式への出席という共通の目的にかこつけて、ちょっとした旅行だってできるわね。そう思って胸を躍らせている自分に気づき、セイラはふと冷静さを取り戻す。こんなの、私らしくないわ。でも、いいじゃない、それが恋というものなら。
 電話に出たアムロに招待状のことを聞くと、彼のところにも届いていて、ちょうど電話しようと思っていたところだった、と言った。
「こういうの、初めてなんです」とアムロは言う。
「どんな服装で行けばいいんですか」
 聞けば、今年の夏、父親の葬儀で着た夏物のブラックスーツがあるだけだという。私をエスコートするのだから、ふさわしい服装をしてもらわんければね。そう言葉を返すと、アムロは言った。ファッションのことは、よくわからないんです。よかったら、買い物に付き合ってくれませんか。わかったわ、とセイラは答えた。次の土曜日に、どうかしら。
 結局、ショッピングに出かける約束をしただけで、電話は終わった。リロイ刑事に何を聞かれたかは聞きそびれたけれど、それよりも今は、先の楽しみのために心を躍らせていたかった。


 結婚、か‥‥。
 セイラとの電話を終えると、アムロはその言葉の持つ重さを感じるかのように、つぶやいた。そういうことに疎かった彼は、ブライトとミライとが、一体いつから恋人と呼ばれる関係になっていたのか、さっぱりわからなかった。ひょっとしたら4年前、元ホワイトベースのクルーがトーキョーで集まったときには、もうそういう関係だったのかもしれない。だがあのとき、アムロはその集まりに顔を出すことはなかった。その前日、ブライトから連邦軍にスカウトされたときに言われた言葉が、その時の自分の薄っぺらいプライドをずたずたにしたからだった。
 セイラのことを、好きだと初めて気づいたのは、いつだっただろうか。もともと通信席に座っていた彼女がGアーマーのパイロットになり、アムロと組むことになって必然的に話す機会が増えたということがあった。すると、ホワイトベースの中でも、あまり周囲と親しげに話すことのなかったセイラが、何気なくプライベートなことを口にするようになった。例えば、フラウ・ボゥのことをどう思っているのか、とか、自分もシャアを倒せるぐらいになりたい、とか。パートナーとして一緒に戦っているのだ、という意識も芽生えた。
 けれど、そういう親しい距離感というのとは、まったく違うのだ。ある日突然、まるで降って湧いてきたかのように自分の心の中に入り込み、そのことで頭がいっぱいになる。一年戦争の最終決戦の地、ア・バオア・クーから辛くも脱出を果たして宇宙要塞ソロモンに戻ったあとだった。そこからジャブローに帰還する船に乗ったとき、久しぶりに見た彼女の笑顔に、アムロは心が貫かれたようになったのだ。ああ、これが「好き」という感情なのか、と。そして自分は、セイラさんが「好き」なのだ。

 もし、好きという言葉が恋愛感情ではなく、距離の近しさからくる親しみや、あるいは眩しさに見上げる憧れからくるものだったとしたら、セイラが実はシャアの妹だった、と知ったとしても、これほどまでに苦しまなかったかもしれない。自分が好きだと思い、ずっと一緒にいたい、離れたくないと思った最初の女性が自ら戦場に身を投じてまで戦いを止めさせようとしていた彼女の兄を、アムロはその手で刺し殺そうとさえしたのだから。
 誰よりもガンダムをうまく使える、連邦軍の影のエース。そんなプライドは、彼女を恋しく思う感情の前に、吹き飛んでしまった。だから、軍を除隊してただの高校生に戻ったあのとき、中に何も残っていない、空っぽの自分を彼女に見られたくなかった。結局、集まりに行かなかったアムロをセイラは探し出し、図らずも彼女の前で、空っぽな自分を曝け出してしまったけれど。
 父のように、帰る場所が仕事しかなく、ガンダムにしか縋ることのできない生き方をしたくない、とあのとき、彼はセイラに言った。今、思い出す。そんな彼にセイラが返した言葉を。

 ‥‥あなたなら、できるわ。自分の帰る場所を、きっと作ることができるわ。
 ‥‥だからアムロ、逃げたっていいのよ。自分を過去に連れ戻そうとする運命から。


 あれから4年以上の月日が流れた。今、自分が彼女と抱き合い、愛し合うことができるのは、シャアが起こした事件によって、図らずも互いが引き合わされたからだ。もしそれがなかったら、今もアムロは一人孤独で、セイラは他の男に抱かれていたかもしれない。
 アムロは、手にしたままの招待状に目を落とした。ブライトは、ミライと一生をともに歩むと決めたのだ。それが本当に一生涯となるかどうか、今はわからないとしても。彼には軍人という職業、大尉という地位があり、この社会の中で彼にだけ与えられた職責をまっとうしている。自分はどうだろう。まだ学生で、次の道も見えてはいない。その意味ではまだ、空っぽのままだ。それで、どうして口にすることができるだろう、あなたに、自分の帰る場所になってほしい、などと。
 ブライトに、連邦軍に戻ってもう一度パイロットにならないか、と言われたとき、アムロは逃げた。過去に連れ戻されたくなかったからだ。だが、シャアの起こしたクーデター事件によって、もし過去を乗り越えることができたとしたら、自分には、過去に向き合って、まだしなければならないことが残っているのではないか。
 リロイ刑事の話を聞いて、思ったのはそのことだった。シャアとして対戦したジオン・ダイクンの息子キャスバルが、もし彼らに見つけ出されれば、彼は重い刑罰を受け、その命を全うすることは叶わなくなるだろう。その前に、できることなら‥‥。
 アムロはふと思い出し、カイ・シデンにメールを書こうとした。彼はフリーのジャーナリストだ。しかも、ともにジオンのクーデター時にはセイラ救出のために動いており、事情もよく知っている。彼の力を借りれば、もしかしたらシャアの行方を突き止められるのではないか。
 だが彼は、キーボードを打つ手をすぐに止めた。なんと説明すればいいのか、言葉が出てこない。シャアを見つけたいというのは、ごくごくアムロの個人的な思いにすぎず、それを理解してもらうためには、セイラとの間に横たわっていた感情についても、語らなければならない。それに、カイは真実を明らかにすることを是とするジャーナリストなのだ。シャアの行方を彼が知れば、それは報道になり、そして公にされるだろう。それは、アムロの望むところではなかった。
 僕自身が、自分のやり方で見つけ出さなければならない。アムロは、寄宿舎の窓から外を見た。それが最善なのかはわからなかったが、彼にはたった一つの方法しか思いつかない。

 ‥‥遠回りすぎるだろ? いくらなんでも。

 そう思い、アムロはその考えを振り払おうと、首を左右に振ってみた。だが、消えるどころか、それこそが、たった一つの冴えたやり方としか思えなくなった。結婚式の場で、ブライトと会うこともまた、運命のように彼には思えた。


 ダークカラーのフォーマルスーツ、鮮やかなブルーに白い小さなドット柄の入ったネクタイとポケットチーフ、グレーのコート。アムロのためのショッピングだったが、それを存分に楽しんだのはセイラの方だった。ショッピングバッグをいくつも抱えて彼女の部屋に運びこむ。
「寄宿舎の僕らの部屋には、ろくなクローゼットがないんだ」とアムロは言った。
「セイラさんの部屋に、掛けておいても?」
「いいわよ、もちろん」セイラは答えた。
「来る時は、シャツと靴を、わすれずにね。今、コーヒーを淹れるわ」
 アムロは、ソファに腰を下ろした。
「リロイ刑事に、会ったよ」
 キッチンから、セイラが答える。
「そう、どんなことを聞かれた?」
「僕がセイラさんの救出に向かった経緯、彼の機体の右腕を撃ったのは僕か、なぜ彼自身を撃たなかったのか、彼は生きていると思うか」
 セイラが、コーヒーカップを運んできてテーブルに置いた。
「それで、あなたは何て答えたの?」
「ブライトに頼まれて、撃ったのは僕だ、それから、彼は生きている、多分、と」
「三つ目の質問の答えが、ないわ。なぜ彼自身を撃たなかったか?」
「それは、‥‥えーと」と目をそらす。
「彼は、セイラさんの唯一の肉親で、大切に思っている人だから、と。彼は僕の言った意味を、わかってくれたと思う」
「そう、それはよかった」セイラは、手にしたカップを置くと、言った。
「今頃、ブライトとミライは式の準備で大忙しね。それとも、ファーストダンスの練習か」
「ファーストダンス?」
「式が済んで夫婦になった二人が、パーティではじめて踊るダンスのことをいうのよ」
 そう言うと、セイラはイタズラっぽい視線をアムロに向け、そして、手を取った。
「こんなふうにね」
 両腕を肩の高さに上げ、片方は伸ばして手を組み、もう片方は互いの腕に沿わせてセイラはアムロの肩に手を置く。もう一方の手はアムロ、私の背中に回してそう、ホールドするのよ。
 スロー、スロー、クイック、クイック‥‥‥‥
 足元がおぼつかなく、下ばかり見ているアムロにセイラは言う。
「ステップは大丈夫よ、アムロ。だから顔をあげて、私を見て」
「鬼軍曹ですね、セイラさん」
 まあ、と呆れた顔をしたあと、セイラは笑った。
「どこで、覚えたんですか?」
「南フランスにいたときね」セイラが言った。
「養父母は、いずれジオンに戻って社交界デビューするのだから、と言って兄と私を練習させたの」
 兄、と言う言葉につい、セイラの背中に回した腕に力が入る。彼女は微笑みを返すと、言った。
「なかなか、さまになってきたわ。素敵よ、アムロ」
 なんだか遊ばれている気もしないではなかったが、楽しげに笑顔を見せる彼女を見ていると、今日伝えようと思っていた自分の今後のことは、結局話を切り出すことができなかった。

 ブライト・ノアとミライ・ヤシマの結婚式は、戦争前に父を亡くしていたミライの父親がわりを、彼女の父と親しかったゴップ提督が務める盛大なものだった。式の前、控室でウエディングドレス姿でミライはアムロらを出迎えてくれた。
 わあっ、ミライさん、素敵!と、フラウ・ボゥとキッカ・キタモトが声をあげて、彼女のもとに駆け寄る。ホワイトベースに搭乗していた頃4歳だったキッカも、もう10歳、淡いピンクのドレスで着飾って、この日は式でフラワーガールを務めることになっていた。
「遠いところから、来てくれてありがとう、フラウ・ボゥ。キッカ、あなたも素敵よ。それにカツとレツも」
 二人もブレザーに蝶ネクタイという慣れない出立ちで、照れくさそうに立っている。だが、後からやってきたアムロの姿を見て、彼らもいつもの調子を取り戻すと彼のところへ駆け寄った。
「あ、アムロー!」
「来てくれたんだね、今度は」
 ミライも立ち上がり、アムロとセイラを出迎える。丸く開いたデコルテにボリュームのあるフリルがあしらわれた、ふんわりと丸くふくらんだプリンセスラインのウエディングドレスを纏い、肘まで隠れる白いグローブで腕を覆っている。
「結婚おめでとう、ミライ」
 セイラは彼女の肩に手を置くと、頬にあいさつのキスをした。
「実はね、4年前トーキョーで集まるというとき、ブライトに頼まれてボストンで一緒に買い物をしたの。あなたにアクセサリーを贈りたいんだけど、選ぶのを手伝ってほしいって。それで、私聞いたの。プロポーズするの?って。そのときブライトは、こう言ったわ。まだ、そこまでは、ってね。そのときからずっと、この日を楽しみにしていたの。随分、待たされたわね?」
「ええ、もっと先になるかと思っていたけど、年明けから彼、艦隊勤務になることが決まったの。基地はフォン・ブラウン。それで‥‥」
「月へあなたを連れていこう、となったわけね」
「ええ‥‥、来てくれてありがとう、アムロも」
「お招きありがとうございます、ミライさん」そう言うと、アムロも彼女にあいさつのキスをする。
「終戦後にジャブローで別れて以来ね、アムロ。あれから、背が伸びた? 随分と大人っぽくなったわ」
「もう大人です、年齢からいえば」アムロが言った。そこへ、にぎやかな声が加わる。
「やあ、皆さんお揃いで」
 にこやかに右手を挙げながら、控室に入ってきたのはカイ・シデンだった。そのあと「へーっくしょん」と盛大にくしゃみをした。真っ白なスーツに藤色のシャツ、濃い紫のネクタイを合わせている。鼻の下をこすりながら、彼は言った。
「いや、地球には冬っていうものがあるのを、うっかり忘れてしまっててね」
「あきれた」とフラウ・ボゥが腰に手を当てて言う。
「なあに、カイさん、その格好? 新郎新婦でもないのに真っ白なスーツなんて」
「いいじゃないか、ブライトは軍人なんだから、軍の礼服を着るだろう? 被ることなんてないさ」
 その言葉に、フラウ・ボゥの隣にいたセイラもふふふ、と笑う。
「相変わらずなのね、一張羅なんでしょ? いつもUNNでレポートするとき、そのスーツを着てるじゃない」
「あ、僕知ってる、見てるよ、テレビで」と、レツが口を挟む。
「まあ、カイ。この結婚式はレポートしないで?」ミライが言うと、周囲は笑いに包まれた。


「元気そうですね、セイラさん。安心したよ、アムロ、おまえも」
 カイはミライにあいさつすると、二人に声をかける。彼は二人の姿を交互に見ると、ニヤニヤと笑った。
「なんなの? その顔」
「いやね、セイラさん。あなたの、その青いドレスとあいつのネクタイの青、お揃いだね?」
 セイラが、すっと眉を上げて言った。
「よく気がついたわね?」
「俺はこれでもジャーナリストだ。観察眼が命だからね」
 そう言うと、カイはアムロの肩に手を回し、耳に口を近づけてささやいた。
「いいか、アムロ。これ以上セイラさんを泣かすんじゃないぞ」
「あ‥‥、ああ」予想だにしなかった言葉を聞いて、アムロはつい曖昧にうなずいた。
「で、ハヤトはどこだ? 来てるんだろ、はるばるグラナダから」
「ブライトの方の控え室へ行ったよ、同じ連邦軍の士官だからね」
「そうか、あいつも地球連邦軍の少尉様、だったな」


 礼拝堂での挙式が終わると、ブライトとミライは礼装の兵士たちが剣を掲げて作ったアーチをくぐりぬけ、参列客からライスシャワーを浴びせられると歓声が上がった。花嫁からのブーケトスをキャッチしたのはフラウ・ボゥだった。彼女はうれしそうに、それをアムロに見せた。栗色の髪を肩まで伸ばした彼女もまた、大人の女性になっていたが、時折見せる屈託のない笑顔が、アムロには妙に眩しく感じられた。そして思った。もしウッディ大尉とマチルダ中尉が生きていれば、二人もきっとこんなふうに式を挙げ、ホワイトベースのみんなで祝っただろうと。しかし二人はそれぞれの時と場所で戦って命を落とし、二人が命を賭して守ったホワイトベースもまた、沈んだ。
 披露パーティーで、ブライトとミライは見事なファーストダンスを披露して喝采を浴びると、着飾ったゲストたちも思い思いの相手と踊り始め、会場はさながらダンスフロアのようになった。ブライトの同僚と思しき正装の士官たちが女性たちに声をかけ、フラウ・ボゥが若い士官と踊っている。アムロはセイラに声をかけ、飲み物を取ってくるために席を離れた。
 ドリンクバーでワイングラスを手にしたとき、横にやってきた士官が彼に声をかけた。
「失礼、君がブライト大尉の友人の、アムロ・レイ?」
「ええ‥‥そうです。あなたは?」
 すかさずアムロは階級章とネームプレートに目をやった。ファレル‥‥大佐。ファレル?
「ブライトの上官の、コーリン・ファレル大佐だ。君のことは、娘から聞いた。なぜ君が軍人でないのか、不思議でならない、とね」
 彼はデキャンターからグラスにウイスキーを注ぐと、口にした。
「娘は軍の情報部にいてね、例のジオンのクーデター事件の際に、グラナダで君に会ったと聞いた」
 アムロは、セイラ救出のため<サイド3>へ向かう途中、グラナダの宇宙港であった女性士官を思い出した。
「ミランダ・ファレル少尉ですね」
 大佐が、うなずいた。
「そこで、君のことを調べさせてもらった。もちろん、ブライト大尉からも話を聞いた。軍のスカウトを、断ったそうだな。なぜだ?」
「住んでいた<サイド7>に帰れなくなり、乗っていた船も守り切れませんでした。連邦軍に、僕の帰れる場所はもうないと思ったんです」
「しかし、まだ若い。部隊に所属すれば、そこが家族になる。宇宙に出れば、船が帰る場所になる。ちがうかね?」
「それは‥‥」アムロは周囲を見回した。
「それは、船が沈んでも、まだ帰れる場所がある人だから言えることです」
「そうかね?」
 ファレル大佐が、ちらりと後ろを見て言った。
「大変な人気のようだな、君の姫君は。蹴散らしてやったらどうだろう?」


 見てみると、セイラをダンスに誘おうと、男たちが群がっている。
「ありがとう、お話できて光栄です」アムロはそう言って会釈すると、二人分のグラスを手に、席へ戻った。
 アムロは、グラスをテーブルに置いた。軍服の男三人に囲まれながら話を聞いていたセイラは、彼の顔を見てほっとした表情を浮かべる。アムロは言った。
「お待たせしてすみません、セイラさん。乾杯しますか、それとも、‥‥ダンスにしますか?」
 セイラが、にこやかな笑みを浮かべて、手を差し出した。まさか人前で踊るつもりなどなかったが、アムロはもうどうとでもなれという気分になっていた。鬼軍曹が、優しく微笑んでいる。アムロは下を見ないで私を見て、という彼女の言葉を思い出し、ただ、彼女の顔だけを見ながらステップを踏んだ。
「すてきよ、アムロ」
 彼女が耳元でそう囁いて、輝くような微笑みを見せた。その幸せそうな表情を見て、ふとアムロは胸が押しつぶされそうになる。そんな気配を悟られないようにしながら、アムロは言った。
「あとで、大事な話があるんです。聞いてくれますか」
 セイラが、目を細めてうなずいた。

 ブライトとミライはその夜、二次会と称してホワイトベースの仲間たちと過ごす時間を取ってくれ、こじんまりした店で、彼らは集まってしこたま語り合った。セイラは同業であるカイと話し込んでいる。そのあと二人で過ごす夜の時間を惜しんだので、アムロは結局その日はセイラに話を切り出すことはできなかった。


 次の日、二人は帰路の航空便の出発までの時間、ノーフォークの街を少し歩き、そして港をめぐる観光船に乗った。細長く複雑に入り組んだチェサピーク湾の入り口に位置するその街は古くから港湾都市として栄え、旧世紀時代には世界最大の海軍基地があった。港をめぐる船からは、そんな歴史を持つ港と街並みを一望することができる。
 船のデッキで、二人は海の上に吹く冷たい風を感じていた。コートの襟を立てると、セイラが言った。
「もうそろそろ、大事な話を聞かせてくれてもいいんじゃなくて?」
 風に吹かれてそよぐ彼女の金色の髪が、日の光を受けてキラキラと輝いて、その美しい横顔を縁取っている。アムロは、そのままずっと彼女を見ていたい、と思った。
「大事な話というのは、将来のことだ。‥‥つまり、僕たちの」
 セイラが、アムロの方に顔を向けた。
「セイラさんは、どうですか。今の会社でずっと仕事を続けるつもりですか」
 彼女は肩をすくめて、言った。
「そうね、3年は続けると思う。そのあと、フリーになるつもり。自分の心にあるテーマを追いかけながら、取材をして記事を書きたい、と思っているわ。あなたは?」
 アムロは目をそらし、正面に見えてきた旧世紀時代の戦艦に目を向けた。
「大学を出たら、<サイド7>に戻ってコロニーを復興させる仕事をしたい、と言っていたわね」
 アムロは、頷くと口を開いた。
「でも、その前にやりたいことがあって‥‥、大学を辞めて士官学校へ行こうと思っているんです」
「つまり、軍に戻るということ?」セイラの表情からは、笑顔が消えていた。
「その学校は、どこにあるの?」
「<サイド2>のブライトン。そこにしかないんです、モビルスーツのパイロットのコースは」
「なぜ? 4年前あなたは言ったじゃない、戻りたくないって。お父様のようにガンダムに縋るだけの生き方をしたくないって。あれは嘘だったの? 昨日の結婚式で軍服姿の男たちがチヤホヤされているのを見て、うらやましくなったの?」
「そんなわけないでしょ」
 厳しい言葉を投げつけられて、アムロもつい語気が強くなる。
「何が問題なんですか。卒業して<サイド7>に行くのと、中途で<サイド2>に行くのとで、そんなに大きく変わるわけではないでしょう」
「距離の問題じゃないわ、アムロ。私だって、あなたと同じ戦場にいたのよ。またモビルスーツに乗るということが何を意味するのか、よく分かっているつもりよ」
「大丈夫ですよ、セイラさん。戦争はもう、終わった」
「でも、火種は残っているわ」
 さっきは正面に見えていた古い戦艦は遠ざかり、目前には現役の戦艦が現れた。中にはかつて彼らが乗っていたホワイトベースによく似たペガサス級と呼ばれる強襲揚陸艦の姿も垣間見える。
「それで、あなたは軍に戻って何がしたいの?」
「それは‥‥、言えません」顔を前に向けたまま、アムロは言った。
「ただ、僕は自分の過去に封印をしたまま、前に進むことはできないと思ったんです。セイラさんも、そうじゃないですか? だからあのクーデターのとき、シャアを止めるために自分の過去を明かして、人々の心に訴えた。これからも、そうでしょう? 戦争で受けた人々の傷と再生の道を追いかけていきたいって。そのためには、現場に出ていくしかないって、僕に話してくれたことがありました。僕も、同じです」
 セイラは、目を閉じてじっとしていた。その素肌で風を感じているかのようだった。やがて目を開くと、言った。
「それがあなたの選んだ道なら、私がこれ以上どうこう言うことはできないわ。私たちは、自由だもの。それで、この話はどこへ行き着くのかしら。別れ話?」


‥‥ああ、怯えているのだ、この女性ひとは。去っていく兄の背中の幻影を見て、今もまだ、怯えているのだ‥‥

 アムロはそんな彼女をすぐにでも抱きしめたい思いをこらえ、声を振り絞るようにして言った。
「待っていてくれますか、僕を」
 彼女はアムロに横顔を向け、微動だにしない。
「セイラさん、あなたは僕にとってはたった一人の、帰れる場所なんです」
「意味がわからないわ」冷たい声音で、セイラが言った。
「待つって、一体何を? じっと待ってなんていないわ。まだ仕事を始めたばかりだし、キャリアアップをしていかなきゃいけない。お互いにね。そうでしょ?」
 そしてアムロに背を向けると、デッキの階段を降りてキャビンへと姿を消した。

 キャビンの窓際の席に座ると、セイラは港にたゆたう波を見ていた。

 ‥‥バカね、アムロ‥‥、あなたは、バカよ‥‥

 波間には、羽ばたきをやめて羽を休める水鳥たちがゆらゆらと揺れている。

 ‥‥兄さんを、探す気なのね。隠していても、私にはわかる‥‥

 気がつくと、頬が涙で濡れている。

 ‥‥そして、連れ戻してくるつもりなのね、優しかった、あの兄さんを‥‥

 セイラは一人、小さく首を振っていた。言えないわ、今は。「あなたなら、出来る」だなんて。

 アムロはセイラを追ってキャビンまで来ることはなかった。船は遊覧コースを巡って港に戻った。船を降りると、待っていたアムロと並んでセイラは歩き出し、二人は帰路についた。ボストンの空港に帰り着くまで、セイラは一言も口をきかなかった。


 空港から彼女のアパートへ戻る途中で、ようやくセイラは口を開いた。
「どういう予定なの?」
「1月末に書類を揃えて出願、3月に選考試験、4月に合否発表があって、6月に入学、という予定です」
「試験があるのね。それじゃ、まだ入れるかどうか、わからないってこと?」
「コーウェン少将に連絡した。父の知り合いで、士官学校の教官なんだ。特待生として扱ってやるから試験の方は大丈夫だって。それよりも、ジムでトレーニングして体を作っておけって言われたよ」
「そうね、パイロットとしての能力なら、申し分ないもの」セイラが言った。
「でも、あなたには、あのブライトの着ていた制服は似合わない、と思うわ」
 アムロは、いつものようにセイラのアパートの前に車を停めると、トランクを開けて彼女のスーツケースを下ろして彼女に手渡した。
「‥‥では、僕はこれで」アムロが言った。出発の日が決まったら連絡します、と言おうとしたが、その前に彼女が口を開いた。
「どういうこと? ここがあなたの帰る場所、と思っていたのに、‥‥違ったかしら」
 そしてまっすぐな眼差しでアムロを見上げる。アムロは腕を広げて、彼女を抱きしめた。


 季節はめぐり、街路樹の新緑が通りを明るく彩り始めた。それは二人にとって、別れの時の訪れを意味した。見送りには行かないわ、遠すぎるから、とセイラは言ったが、結局フロリダのケープ・カナベラルにある宇宙港にまで来てしまった。同じ5月の下旬でもフロリダはもう汗ばむような暑さで、ガラス張りの宇宙港ターミナルの外には抜けるような青空が広がっていた。
 衛星軌道上にある軌道ステーション<ポート・アース1>へ行くシャトルの姿が見えた。空港のアナウンスが、搭乗が始まったことを告げている。

 ‥‥皆様、アークライツ航空<ポート・アース1>行き678便は、ただいまより搭乗を開始いたします。小さなお子様をお連れのお客様、特別なお手伝いを必要とされるお客様は、ただいまからご搭乗ください。一般のお客様のご搭乗は、およそ10分後に開始されます‥‥

「入学式が済んだら、制服姿の写真を送って。笑ってあげるわ、似合わないって」
「ブルーがグレーになるだけだ、そんなに変わらないと思うけど」
「いいえ、変わるわ。全然、違う」
 アムロは頷くと、セイラを抱き寄せた。彼女はその肩に頬を預けて、じっと目を閉じている。
「地獄のような訓練が、待ってるって噂よ」
「平気ですよ、きっと。地獄のような戦場に比べれば」
セイラは顔を上げると、彼の背中に回していた手を胸の上に置いて言った。
「もう、行かないと」
「うん」アムロはじっと、セイラの瞳を見つめている。セイラはその目に微笑みかけた。
「あと、もう少しだけ…」
「だめよ」セイラは彼の胸に置いた手に力を込めた。
「あなたを笑顔で見送りたいの」
アムロは首を振った。セイラの頬を両手ではさむと、彼女の唇に自分の唇を重ねた。甘く熱い感触が、二人の間を行き交った。セイラは彼の胸から手を離して腕を背中に回すと、彼のうなじを優しく撫でた。その口づけは、互いの深いところにまで届いていった。
 やがて、体を離すと、セイラは言った。
「さよならは、言わないわ。帰ってくるって、信じているから」
 ゲートの向こうにアムロの背中が消えていった。彼女は展望デッキから、マス・ドライバーで大空へ射出されるシャトルを見送った。遠ざかってゆくシャトルを見ながら、セイラはかつて泣きながら、遠ざかってゆく兄の背中を追っていた幼い日の自分が、すうっと心から消えていくのを感じていた。

〜Fin〜

 inspired by this song  MISIA: BELIEVE


ちょっとしたあとがき

 このシリーズも締めくくりを迎えました。学生だったアムロが再びパイロットになることを決意し、セイラと離れて宇宙へと飛び立っていくまでを、なんとか描き切ることができました。今回は、大好きなMISIAの「 BELIEVE」からイメージしたお話ですが、タイトルには歌詞の一節から「飛び立つ日」としました。「愛してる それだけで こんなにも強くなる」と歌われた、そういう感じが表現できたら、と思っています。

 最初のリロイ刑事とアムロが対面する場所に選んだボストン美術館には、1ドル=80円台だった日本最強時代に訪れたことがあります。1日では見て回れない膨大なコレクションで、中でも、幕末から明治維新にかけて、文明開化の裏側でその芸術的価値を見失った日本人から、おそらくは二束三文で買い集められ海外に流出した、至宝ともいうべき日本美術のコレクションには、目を見張るものがありました。緻密で隙間なく描きこまれた西洋の絵画を食傷するほど見たあとで、突然目の前に、墨の濃淡だけで描かれた日本の絵画が現れると、その美の捉え方、表現の方法のあまりの違いに驚き、余白を空間にするそのセンスに、ある種民族の天才性を見る思いがしたことを思い出します。

 そんな話はともかく、宇宙へ旅立ったアムロのつづきのお話が、今連載中の「機動戦士ガンダム0090 越境者たち Beyond The Borders」になるわけですが、この作品を書き始めたときには頭になかった、アムロがパイロットに戻った目的が、本作で明確になったことで、こちらの方も、明確な道筋が見えてきました。
 やや風呂敷を広げすぎな点もあり、ここまでとの整合性も見直しながら、お話を整理しつつ書きすすめていきたいと思っています。

 クワトロに名を変え姿を変えたシャアとアムロ、接点はありそうですが、いつ、どんなふうに再会するのか? そのシーンはもう頭の中にあるので、そこへ向かって・・・行けるように頑張ります。

最後までお読みくださり、ありがとうございます。 ぜひ、スキやシェアで応援いただければ幸いです。 よろしければ、サポートをお願いします。 いただいたサポートは、noteでの活動のために使わせていただきます。 よろしくお願いいたします。