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大切な本55「目の見えない白鳥さんとアートを見にいく」

自分にはみえなかった世界

 ノンフィクション作家の川内有緒さん。国連で働くという稀有な経験を描いた作品なども大好きだけれど、この本はさらに上をゆく面白さ!!と思ったのはもちろん自分だけじゃなかったらしく、本屋大賞も受賞、さらには映画化も。白鳥さんが実際に美術館を行脚する様子を映像で観られて嬉しい。

 高校生の時、美術科の先生にいただいた招待券でクラスメイトの男の子と一緒にとある美術展に行った。クラスメイトは一番はじめに飾られた絵画作品の前につと立ち止まり、鞄も床に投げ出しなかなか動きそうにない。私は彼をおいて先に進んだ。キャプションを読んだり、印象的だった作品の前では少し足を止めつつ、ただ進路に従いひとつずつ作品を眺めていく。展示会での鑑賞法はこんな感じだろうという「一般的な」作法に従ったまでの私をよそに、彼はずっと一つの作品をみつめ続け、最後までそこから動かなかった。

 一通り観終わった自分は時間を持て余してしまい、話しかける雰囲気でもなかったので持参してた文庫本を出口近くのソファで読んで待ってた。ようやく鑑賞を終えたクラスメイトがハッとしたように私の存在に気づき、無言で一緒に駅まで帰ったことがふと思い出された。

 クラスメイトも川内さんも白鳥さんも、世間の常識や固定概念に縛られず自由であっていいことを私に(教えるつもりもなく)教えてくれた。自分の世界に浸って作品と対峙するもよし、連れ立ったひとと一緒にあれこれ語りながら観るもよし。

 自分がみたいように世界をみられる柔軟な感性が欲しいなぁ。そして素敵なモノコトはどんどん仲間とシェアしていきたい。ここでもきっと「対話」がひとつのキーワード。



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