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お茶好きの隠居のカーヴィング作品とエッセイ-昔ばなし

20.  ニューファウンドランドのお化けヤギ



ニューファンドランドのお化けヤギのカーヴィング作品


ヤギさん


ぼくとママがかんこうぼくじょうについたとたん
あめがふってきたんだ。
ママはぼくにプラスチックスのレーンコートをきせたよ。
けいたいようのとてもうすくてフワフワかるいやつよ。

はなしがいのヤギさんたちがぼくにちかづいてきたんだ。
あっとおもうとヤギさんはぼくのレーンコートをたべてたよ。
ぼくは、あわててにげようとした、でも、おそかったんだ。
もう、ずいぶんたべられて、ぼくはなきべそかいちゃった。

ヤギさんたちはわらってるようだったよ。 なにがメーメーなのよ。
ぼくがなきべそかいたのはレーンコートがだめになったからじゃない。
ヤギさんがレーンコートをたべておなかをこわすとおもったからよ。
そんなきれいなおめめでわらっていて、ヤギさんだいじょうぶかな。

山羊


草を食べてる山羊ひとつ
食べてる草に蝶ひとつ 留まって煽ぐ翔の先
山羊の鼻面なでまわし 迷惑顔に首をふる山羊

蝶は慌てて跳び逃れ
山羊の眼(まなこ)をかすめて翔べば
山羊は堪らず逃げまどう 夏から秋に移る一齣(ひとこま)

山羊よ 草を食べよ 食べて食べて食べつくせ
君は草刈り機だ  そして草をミルクに変えよ
それは結局チーズになるんだ なんとすばらしい

草を食べてる山羊ひとつ
君の瞳は人のそれ、ぽかんとしている僕を見る
知っているのか あの蝶は僕の体を抜け出た魂

エッセー

ヤギというと、我々日本人には、「メーメーヤギさん」の可愛らしいイメージが浮かぶのが普通です。 しかし、1989年の8月に、私達家族がニューファウンドランドを旅した時に出会ったヤギはそんなイメージからは、かけ離れた奴でした。

カナダのニューファウンドランド島はセントローレンス湾を挟んだ本土ラブラドール半島の一部を併せてProvince of Newfoundland and Labradorを形成し、州都、St. John’s は、カナダ最東端に位置し、この国を西から東に大陸を横断する Trans-Canada Highway、国道1号線 の終点でもあります。

又、この島には、Come by Chance という変な名前の町があります。 そこには、1970年代に、当時の10大商社の一つ安宅産業が破綻した原因となった石油精製工場が在って、日本には、そういう意味で、妙に縁がある島なのです。 私の旧友の一人は、私と知り合う前に、この製油所のエンジニアーとして働いていたのだそうです。

私達家族がそのヤギに出会ったのは、St. John’s からその町に向かう国道1号線上です。 最初に出会った奴は、助手席の家内が見つけて、運転していたレンタカー(Pontiac sedan: 車高~130cm)と並走して、運転席の反対側をスタスタ歩いていました。 車速を落として、助手席を隔てた窓を通して見ると、窓の最上部くらいに頭のてっぺんが来るくらいの背丈です。 ヤギとしては大きい方ですが、驚くほどではありません。 正確には覚えていませんが、体色が全体に青黒く、金色の目で、鼻ズラが黒く、日本人が普通に知っているザーネン種の白いヤギとは全然、違います。 そいつを追い越して、次の小さな町のショッピング・モールの駐車場に車を入れたら、今度は、それよりも、ずっとデカくて、同じような毛色で最初に会ったのと相似形のような奴が居て、肝をつぶしました。 牛と同じくらいか、もっと大きいか、と思うほどでした。  モールと言っても、「ド」が着く田舎町で、駐車場はガラ空き、3・4軒しかない店はみんな閉まっているようで、人っ子一人居ませんでしたから、そいつは我が物顔で、前足を折って座り込んでいたのです。 角は、後ろに反っていますが、巻いておらず、顎髭もありました。 つまり、羊でも牛でもありません。 ですが、ヤギとしたらモンスターです。 写真が無いのが残念ですが、あの時は、相手が家畜なのか、野生なのかもわからず、あまりにも大きいので怖くて、写真を撮るために、近くに寄る勇気が無かったのです。 カーヴィング作品のヤギは、当時のおぼろげな記憶に基づいて、作りました。 こんな感じだったと思います。

西海岸に居る、mountain goat という野生ヤギは何度も見ていますが、その大きさは、日本にいる家畜ヤギよりは大きいですが巨大という訳ではなく、最初に出会った奴はこの種と同じ位の大きさでした。 しかし、後で見た奴は、全くお化けのように見えました。

野生ヤギかと思って、家に帰ってから、National Audubon Society の “Field Guide to Mammals” も見てみましたが出ていませんし、最近になって、ネットでググっても、東海岸、ラブラドールに特有な野生ヤギの記事はヒットしません。 ですから、体色が千差万別の家畜ヤギの可能性が高いと思いますが、大きさに関しては、規格外なのは間違いありません。

下記 URLはこの島のNew Perlicanという町の人が、一夜集まって、自分の町とヤギの深い関わりについての、実に泥臭い雰囲気の話を紹介しあった記録(2017年の記事)ですが、ここの人々とヤギとの昔からの切っても切れない関係が良くわかります。

https://www.academia.edu/34399128/The_Goats_of_New_Perlican

一体、ニューファウンドランドという土地では、昔からヤギを飼っている人が多く、上記URLによると、1935年には州全体で15,071頭のヤギが居て、このNew Perlicanの町では1945年には、3人に一人がヤギを飼っている勘定だったそうです。 その頃のヤギは放し飼いにされていたそうで、このURLに載っている幾つかの話にあるように、ヤギが作物や、花壇等に与える食害、その排泄物等で水源を汚染すること等の被害が大きくなり、結局、「柵の中で飼うことが求められるようになった」とのことです。 多分、そうなったのは、この記事の編纂がされた頃でしょうから、私が訪れた1989年にはまだ、放し飼いが行われていたのだと思います。 そして、このURLに紹介されているように道路上にヤギが寝そべっていることなどは、極く普通に見られることだったようです。

赤ちゃんヤギのカーヴィング作品

日本では、小笠原諸島で野生化したヤギによる、小笠原固有植物への食害が、大きな問題になっています。 小笠原の野ヤギの写真を見ると、大きさは兎も角、私が昔、ニューファンドランドで見たモンスターと雰囲気が似た奴もいますね。

ヤギのみならず、奄美大島その他の離島で野生化した飼い猫が、島の固有種に被害を与える等、同じような問題が大きくなっています。 これらの問題にも、国は、もっと、真剣に取り組むべきです。

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