【フィギュア】紀平梨花の鮮烈デビューと女子シングルの今後について
グランプリシリーズ第4戦のNHK杯で日本の紀平梨花選手がGPSデビュー戦で優勝という快挙。フリーでは3Aを2本成功させ、フリーと合計得点は今季世界2位。2位の宮原選手、3位のトゥクタミシェワ選手までが合計210点以上というハイレベルな争いとなった。
全てを兼ね備えた紀平選手
紀平選手の演技は鮮烈だった。2本の3Aは成功しただけでなく流れのある美しいジャンプ。他のジャンプもきれいに跳べて、スピンもステップも細かな所作まで、全てを兼ね備えた選手に思える。シニア1年目でここまでできるものなのか。
今年9月、五輪女王ザギトワ選手の緒戦を見て「今シーズン全体の勝者はもう決まったのでは」とすら思った。あとは自分との闘いである、と。しかし今回の紀平選手の活躍で、「ザギトワ選手と戦えるのではないか」という予感が現実味を増してきた。
女子シングルの技術革新
女子シングルは長らく、3Lz+3Tまでの難度のジャンプを駆使し、完成度の高さが勝敗を分けてきたと思う(例外はあるが、回転不足の判定を受けることが多かった)。しかしここにきて、技術的な壁を破る3つの選択肢が現実的になりつつある。
①セカンドの3Lo
②3A
③4回転ジャンプ
いずれの選択肢も前例はあるのだが、定着はしなかった。現在でもこれらが可能なのは一部の選手に限られるが、来シーズン、3つの選択肢が同時にやってくる。①の代表がザギトワ選手、②が紀平選手、ジュニア世代には①と③の両方を行うトゥルソワ選手・シェルバコワ選手がいる。
ここ数年、男子シングルで見られたような急激な進化が女子でも再現されることになりそうだ。今後の潮流に影響を与える重要な時期になるだろう。高難度化による怪我への心配は尽きないが、でも見たい、という相反する気持ちを抱えている。
☆追記(2019/1/6)
①紀平選手がザギトワ選手と「戦えるのではないか」という予感は、12月のGPFで「超えられる」という形で現実になった。ザギトワ選手のベスト(ネーベルホルン杯での238.43)を実際に超えたわけではないが、SPとFSをノーミスで揃えれば240点以上も十分有り得る。それを可能にしたのが、PCSの上昇である。NHK杯の時点から素晴らしい演技をしていたが、GPFで顕著に得点が上がった(FSで67.55→72.40)。この一件でPCSがやや保守的に運用されていることを感じた。
②このNHK杯は女子高難度化のターニングポイントとして歴史に残る大会になったと思う。このタイミングに反応して本記事を書けてよかった。ちなみに男子におけるターニングポイントは2015年のNHK杯だろうか。羽生選手の史上初300点超えとボーヤン・ジン選手の4Lzのインパクトはあまりに大きい。
③本記事で技術革新の3つの選択肢について述べているが、その文脈では語れないのが、全日本選手権の坂本選手の優勝である。彼女はいわゆる従来の枠を出ない構成でありながら、紀平選手を含む超ハイレベルの争いを制した。国際大会で同様の評価が得られるかはわからないが、素晴らしい演技を見れた喜びと、一筋縄ではいかないことを感じた。
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