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2022.6 良かった新譜

CANDY / Destroy Rebuild Until God Shows / Earthists. / Gospel / Khamai Leon / Messa / Petrol Girls / SAKA-SAMA / Your Ghost in Glass


CANDY - Heaven is Here
(Album, 2022.6.24)

 バージニア州リッチモンドのハードコア。Relapse Recordsよりリリースの2nd。Code OrangeやPower Tripの作品を手掛けたArthur Rizkと、メンバーであるMichael Quickによる共同プロデュースである。
 危険なアルバムだ。#7「World of Shit」とか、完全に鳴っちゃいけない音が鳴っちゃってるし、アルバムを締め括る#10「Perverse」は10分超のノイズトラックで、完全にやりたい放題。それこそCode Orangeを過去にしてしまうような、危うくもどうしようもなく魅力的なインダストリアル・ノイズ・ハードコア。そして、もうこれがアリならこれ以降は何でもアリになっちゃうでしょ、という例を作ってしまった罪深さ。


Destroy Rebuild Until God Shows - Destroy Rebuild
(Album, 2022.6.17)

 Chiodosのボーカリスト・Craig Owensを中心とした、ポスト・ハードコア〜メタルコア・スーパーバンド。From First To Last、Matchbook Romanceのメンバーらと共に2011年にリリースした1st「D.R.U.G.S」はシーンのリスナーに今も高く評価されている名盤だが、程なくして2012年に活動終了。今回はBring Me The Horizon / I Killed The Prom Queenで活躍したJona Weinhofen、元All That RemainsのAaron Patrickを迎え、11年ぶりのリリースとなる。
 ...と言われて、果たしてこのアルバムに期待できるかというと、NOでしょ、と正直思っていました。素晴らしいアルバムを1枚リリースしてすぐに解散した伝説のバンド、が復活ねえ...しかもメンバーも全然違うしねえ...みたいな。実際、僕は1stを熱心に聴いていたので、余計に過度な期待はしないでおこう、と思っていました。
 結論、かなり良作です。11年の隔たりを感じさせない、全曲勢いのあるキラーチューンで駆け抜ける38分。1stはアレンジのアイデア勝負でインパクトのある楽曲が揃っていましたが、今作はとにかくCraig Owensのとんでもない歌唱とソングライティングの秀逸さが光りに光る。20年超活動しているボーカリストが、ここまでエネルギッシュなハイトーンを響かせまくるのは、シーンにとっての大きな希望でもあります。
 そして改めて1stを聴き返してみると、なるほどこの頃から、メロディーを聴くべきバンドだったんだと気付かされる(何年振りに再生したかわからないけれど、普通に全曲ずっと口ずさめてビックリしました)。長い時を経て、傑作をさらに傑作たらしめるような傑作。「トップガン マーヴェリック」みたいなものです(違います)。


Earthists. - Have A Good Cult
(Album, 2022.6.22)

 東京出身メタルコアバンドによる3rd。かつてはDjent / プログレッシブ・メタルコアの印象が強い彼らだったが、近年ではキャッチーなメロディ路線で、間口を大きく広げている。
 凄い曲ばっかりの凄いアルバムです。
 しかし高い水準の演奏レベルと重厚なアレンジからか、「世界標準のサウンド」的な形容をされることも少なくないように思うが、果たして本当にそうだろうか?
 ボカロ/アニソンっぽい忙しないシーケンスや(Kawaii)Future Bass的なサウンドを惜しげもなく取り入れる彼らは、むしろ日本的なガラパゴス化を果たした独特なバンドではないか。そして、それをスカした感じなく、むしろアツさでオタク感を脱臭することに成功しているのが凄い。誤解を恐れずに言うならば、彼らは非常に巧みにリスナーを"騙している"ようにすら思う。
 個人的にはサイクロンからclub asiaのちょうど間に立つような、渋谷のライブハウスやクラブの空気感をギュッと閉じ込めたような印象がこのアルバムにあって、海外のリスナーにリーチし得る位置にいる彼らがこのアルバムを作り上げたのは、凄く面白いムーブメントの第一歩になり得るかもしれない、とワクワクします。


Gospel - The Loser
(Album, 2022.5.13)

 ニューヨーク・ブルックリンの4人組による、17年ぶり(!)の2nd。2018年の再結成以前、唯一のアルバムであった1st「The Moon Is a Dead World」は、激情スクリーモシーンの金字塔として高く評価される名盤である。...また「伝説のバンドの復活作」だ! そして例によって期待せずに聴いて、こちらも打ちのめされました。もうこんな下らない固定観念は捨てよう。
 しかし、バンドは2003年結成、恐らくはメンバーも40歳前後で17年のブランクを経た上で、混沌としたエナジーが要求されるジャンルである激情ハードコアを確かな説得力を持って演奏できるのか? という点は真っ当に疑問だった。本作で、彼らはそのハードルを、以前より特長としていたプログの要素を強めるという手段によって解決している。いわば、スクリーモ化したキング・クリムゾン。"いかにも"なシンセの音色と変則的な演奏は、ストレンジなハードコア・パンクがいかに歳を取るべきかという命題への一つの解答のようでもある。


Khamai Leon - hymn
(Album, 2022.5.11)

 「エクスペリメンタルクラシック」を標榜する東京の4人組による1st。東京藝術大学・昭和音楽大学出身というアカデミックな出自を持ち、ジャズやクラシックをルーツとしているが、一方で直感的な表現やストリート的な感性を重視しているように見える一面もあり、それがいかにもKing Gnu以降の世代が持つ開放感なんだなと思う。CRCK/LCKS + KID FRESINO、とでも形容できそうな、テクニカルな演奏とスムースなラップが特徴的。今にも広いステージで活躍し出しそうな雰囲気ムンムンだ(と思ったら、ちょうどフジロック出演が発表された!)。


Messa - Close
(Album, 2022.3.11)

 イタリアの4人組ドゥーム・メタルによる3rd。ドゥーム・メタル、サイケデリック・ロックが、ジャズやブルース、そして民族音楽と分かち難く結び付き、独自性へと昇華されている。その音使いは、ジャンルこそ違えど、System Of A Downとの共通性を感じた。ただ、SOADが生活に近い土臭いリアルさを求めたのに対し、Messaのそれはより強い祈りや儀式的なモチーフを思わせる。ずっしりと重いアルバムだが、繰り返し再生してしまう魅力がある。


Petrol Girls - Baby
(Album, 2022.6.24)

 ロンドンの四人組ハードコア・パンクによる3rd。At The Drive-InやFugaziを想起させる性急でエクスペリメンタルなポスト・ハードコアにグランジやマスロックの要素を加えたサウンドの上で、Ren Aldridge(Vo)が女性を虐げてきた者達や男性優位社会への怒りを叫ぶ。#6"Baby, I Had an Abortion"での「Baby, I had an abortion / And I'm not sorry 」というフレーズはショッキングだが、ここまでインパクトのある言葉でアクチュアルな問題に切り込めるのはとにかくカッコいい(ちなみに、この曲は今年2月にリリースされており、ロー対ウェイド判決の覆しが話題となる以前より、彼女達はこの問題にコミットしている)。他でもない自らが人生を選択しコントロールすることがいかに重要か、このアルバムを聴いて理解できないようなら、あなたは自分が他人より優れているという価値観を改めるべきでしょう。

 

SAKA-SAMA - 万祝
(Album, 2022.6.17)

 東京の2人組アイドルグループによる3rd。7月2日のワンマンライブを持ってサポートメンバーである朝倉みずほの離脱がアナウンスされており、本作が現体制最後のアルバムとなる。2枚組1時間47分に及ぶ大作であった2nd「君が一番かっこいいじゃん」と比して、オルタナティブな側面はやや後退し、素朴で、だけど大きな感情が込められた、ウェルメイドなインディーポップ・ロックが彩る28分。等身大でアイドルなアイドルが僕は本当に好きです。愛も喜びも寂しさもくだらなさも、全部あって凄い。 #4"E.S.P."、「テレパシーに疲れても / 元通り戻るわ / 不織布で濾された / 混じり気ない愛で」って、コロナ時代をこんなに美しく優しく描いた歌詞ありますか。



Your Ghost in Glass - Objects in Mirror…
(EP, 2022.6.10)

 Cameron McBride(Methwitch)によるプロジェクトのデビューEP。Alesana、Underoathらに代表される00年代エモ・スクリーモ直系サウンドで全曲キラーチューン、思春期の僕が時を超えて今、泣いています。
 こういう「全曲キラーチューン」のアルバムを何の躊躇もなく作れちゃうのって、リバイバル世代特有の感覚のような気がする。つまり、アルバムとしての緩急やバランスを意識して、ルーズな曲やジャンル外のサウンドを取り入れよう...とか以前に、カッコいいスクリーモの曲やろうぜ!という目的が先に立ってることが、良くも悪くも作品を最適化させる。手段が目的化した故の、ピュアな思いの強度。

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