LiSAが歌う理由 ー 「Catch the Moment」が繋ぐ過去と未来、そして「今」
※本テキストは、2017年8月15日にロッキング・オン社運営の「音楽文」に掲載されたものです(「音楽文」は2022年3月31日にサービス終了済)。リリース日やライブ開催日などは2017年時点の時制に沿って記載されていますのでご了承ください。
LiSAの約2年ぶりの4thアルバム『LiTTLE DEViL PARADE』が、5月24日に発売された。誤解を恐れずに言うならば、「めちゃくちゃ」なアルバムだと思う。ダークで激しいロックを叫んだかと思えば、キュートで弾けるようなポップスを踊り、喜怒哀楽を目まぐるしく往来する。サウンドも歌声も歌詞も、まさに彼女のやりたい放題である。そんな何でもありの13曲が、何故アルバムとしてまとまった説得力を持って迫ってくるのだろうか。それは偏に、LiSAというシンガーの「歌う理由」の強靭さ、揺るぎなさによるものだろう。
多彩な収録楽曲の中でも、彼女の「歌う理由」が特に真っ直ぐに、等身大にリスナーに響くのは、2曲目の『Catch the Moment』ではないだろうか。11thシングルとして発表されたこの曲は、『劇場版 ソードアート・オンライン -オーディナル・スケール-』の主題歌でもあり、映画のヒットに加え、『スッキリ!!』『Mステ』などのメディア出演により、LiSAの存在感を大きく世に知らしめる一曲となった。
だが、『Catch the Moment』は、彼女自身にとって、それ以上の価値がある楽曲だったのではないかと思わずにはいられない。
2016年11月26日、初の横浜アリーナでのワンマンライブ、アンコール1曲目。『Catch the Moment』は初めて世界に放たれた。音が止み、僕はちょうどアリーナのど真ん中辺りで、曲の持つ余りにも強大なパワーに立ち尽くしていた。
これは紛れもなく、「生」と「死」の歌、そして、「過去」と「未来」の歌だ。
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そもそもLiSAは、「今」を歌い続けてきたシンガーだった。<想い出話なんて 下手なままでいいよね>(「逆光オーケストラ」)と歌い、<誰が何て言ってもね ただ今日が最高なんだから>(「best day,best way」)と歌い、<ずっと先の未来は 置いておいて ほら/ありふれて ささやかな 二度と無い/時を行こう 今は>(「No More Time Machine」)と歌ってきたのがLiSAだった。
ライブのMCにおいても、「今を愛すること」を語り、ブログのタイトル(なおかつ彼女の決めゼリフ)は「今日もいい日だっ」。シーンに縛られない、様々なアニソンイベントやロックフェスへの出演といった彼女ならではの活動のスタイルだってそうだ。いつだって、徹底的に今を全力で生きることを表現し続けてきた。
そんなLiSAが、目を背けたくなるような過去や、いつか終わりが訪れる未来についてはっきりと歌うのは、彼女の様々な活動を追いかけてきたからこそ意外だった。
2011年にソロデビューし、2016年に5周年という節目を迎えたLiSAが、このタイミングでこの曲を歌ったことに、どんな意味があったのだろうか。
ライブでの初披露からしばらく経ち、「Catch the Moment」をじっくり、繰り返し聴くにつれて、その謎について、僕なりに理解することが出来た。
むしろこのタイミングだからこそ、この曲を歌う必要があったのだと思う。キャリアを重ねるごとに、ステージは大きくなり、彼女に憧れるファンは多くなった。過去の足跡を振り返らずに進むには、残してきたものはあまりに大きくなっていたし、未来を無視して突き進むには、あまりにも多くの期待や希望を背負っていた。
だからこそもう一度、LiSAは自身が歌う意味を、「今」を歌う理由を、再確認しなければならなかったのだ。この曲は、これまでと違うように見えて、これまでと何も変わっていない。
積み上げてきた栄光も、重ねてきた失敗も、全てが自分に繋がっている。いつかは別れや終わりが訪れるからこそ、懸命に生きる理由が生まれる。LiSAは、過去や未来を見つめることで、今を歌う理由を確かめている。
そしてLiSAは、過去と未来を歌ったこの曲に『Catch the Moment』=<この瞬間を掴め>という名を付けた。「Catch the Moment」を歌ったことで、「この瞬間を掴む」ことが如何に大切かを再確認したのだ。
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今年6月25日のさいたまスーパーアリーナでのワンマンライブで、LiSAは「未来に何が起こるかなんて誰にもわからない、だからこそ今を愛して欲しい」と語った。
過去も、未来も、全てを受け入れた上で彼女が歌い続ける「今」は、きっとこれまで以上に色鮮やかで、エモーショナルに響くことだろう。
8月2日には、12thシングル「だってアタシのヒーロー。」もリリースされ、9月下旬からは全国ホールツアーもスタートする。
彼女のパレードは、まだまだ続く。
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初の音源となる1stミニアルバム『Letters to U』の1曲目。彼女は自身の作詞作曲による歌い出しのこんな一節で、ソロシンガーとしてのキャリアをスタートさせている。
全力で歌った「今」が、いつか誰かの「今」を彩っていく。
彼女が歌う理由は、最初から変わっていないし、きっとこの先も変わらないだろう。
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