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2022.11 良かった新譜

Alien Book Club / Dazy / Ernest Hood / Madmans Esprit / MASTOIDS. / NEUPINK / situasion / Stateside /  twofold / サニーデイ・サービス / 零進法


Alien Book Club - Desecration of the Whispering Salamander
(Album, 2022.2.25)

 2019年ミネソタにて結成の7人組による1st。RPGのプレイアブルキャラ風にコミカライズされた7人が奏でる、スカパンクをベースに様々なジャンルからの影響をブレンドしたサウンドは、過度な編集や加工こそないものの、ASMR的な音響感覚やHyperpop以降のハチャメチャな瞬発力をそこかしこに感じさせる。シュレッディングやマスコア風なカオティックパートが煙たいムードをぶち壊す#4「Angela」や、妙に気の抜けたアンサンブルが気の抜けたまま疾走し躍動する#8「I Can Hear Your TV」といった、"良いんだけどなんか変"な楽曲を経て、最終的に#10「John Carpenter's They Live」で「21st Century Schizoid Man」風のフレーズにまで遡行し、スラッジメタルとの接続で幕を閉じる30分のドタバタ狂騒劇は、掴みどころのなさ故にまた手を伸ばしたくなる。


Dazy - OUTOFBODY
(Album, 2022.10.28)

 バージニア州リッチモンドを拠点とするJames Goodsonによるソロバンドの1st。過剰に歪んだファズギターの音塊に武装された、ポップでアンセミックなコーラスは、さしづめノイズポップ化したOasis、あるいはブリットポップと接続したThe Jesus and Mary Chainといったところか。しかし、何らかの要素を融合させることによって、独創的なセンスを披露してやろうというような野心があるとも思えない。NirvanaやGreen Dayをはじめとする"Gateway Band"(音楽にハマるきっかけになるような、それでいて時に音楽リスナーから軽視されるようなバンド)への憧れを隠さず、「それ以上にカッコいいバンドの在り方なんてある?」とインタビューにて語る彼は、自身の描くロックスター像をDazyのサウンドに投影する。ベッドルームでのレコーディングで、増幅するロックの時代への憧憬は、ピークを超えたゲインに表出する。誇張しすぎたOasis「Be Here Now」のウォール・オブ・サウンド。


Ernest Hood - Back to the Woodlands
(Album, 2022.11.11)

 オレゴン州ポートランド出身のアーティストによる、1972年から1982年にかけて録音された未発表アルバム。Ernest Hood自身は、1995年に逝去している。
 息を呑むほどに美しいチターの旋律が織りなすアンビエンス。本作と同時期に制作された、Pitchforkによる「The 50 Best Ambient Albums of All Time」にも名を連ねるあの名盤「Neighborhoods」にも全く引けを取らない(聴きやすさ・取っ付きやすさでは上回る可能性すらある)楽曲群がこれまで陽の目を浴びず眠っていたことに思いを馳せる。彼の生前にこの作品も正しく評価されるべきだっただろう、もしくは本人がリリースを望まないならば眠らせたままであるべきだっただろうと、いちリスナーとしてこのアルバムを消費することについてあれこれ考えてしまう。が、フィールドレコーディングを通して彼の見ていたオレゴン州西部の風景が克明に目の前に浮かび上がってくる時、そこに、批評や経済活動の世界よりも高次の、そして距離も時間も生死も超えた、作り手と聴き手の2人だけのコミュニケーションが発生する。そんな"音楽を聴く意味"を知るような体験を味わうことができるのだから、今を生きる我々も、彼の作品に触れることができてよかったなと、身勝手ながらに思う。
 個人的に大好きなアルバムのMort Garson「Mother Earth's Plantasia」もだけど、この辺のニューエイジ作品の音ってスーファミ〜PS1くらいのRPG序盤、穏やかな村や森で流れるBGMのそれだから、同世代の人ならマニアでなくとも意外とすんなり聴けてしまう気がします。


Madmans Esprit - 나는 나를 통해 우리를 보는 너를 통해 나를 본다
(Album, 2022.10.22)

 2010年ソウルにて結成のKyuho(Vo)による、"Depressive Suicidal Blackened Pop"を掲げたプロジェクト。正規メンバーは彼のみであり、アーティスト写真に写っている他の4名はライブメンバーという扱いの模様。DIR EN GREY直系のアグレッシヴなハードコアとあさきを彷彿とさせるジメッとした歌謡メタルに、ブラックメタルとBMTH以降のシーケンスを仄かにまぶした音楽性。それ自体は突出した独自性があるわけではないかもしれないが、それでもこのアルバムが強烈なインパクトを放つのは、グロウルからスクリーチ、叙情的な慟哭といった幅広いシャウトと、低音ボーカルからハイトーンクリーン、更にはオペラ的な歌唱など、清濁高低を自在に操るKyuhoの異様なまでのスキルが遺憾無く発揮されているためだろう。韓国のV系シーンがどれほどの規模なのか(そもそもシーンといえるものが存在するのか)は寡聞にして知らないが、日本と海を隔てるが故に、その距離が生む憧れの純度・強度のようなものを感じられる作品でもある。


MASTOIDS. - Long Walk // Short Pier
(Album, 2022.7.15)

 カリフォルニア州サクラメントの3人組による2nd。Dogleg的な熱さ振り切り系5th wave emoの瞬発力を、Soul Blindのようなへヴィーゲイズ〜グランジゲイズの音像の中で爆発させる。複雑なリズムワークやビートスイッチ的な変則展開、ブラストビートまでさりげなく使いこなしてみせ、マスロック〜ハードコア〜ドリームポップと幅広い射程を備えた佳作。
 まあ別に数字とかどうでもいいんだけど、このクオリティのアルバムをリリースしてなお彼らがリスナー数3桁のローカルバンドに留まっていることを考えると、アメリカという国は広い…。


NEUPINK - melt yourself into the flesh of midnight
(Album, 2022.10.28)

 (出身地がよくわからなかった...)のデジタルハードコア・プロジェクトによる6th(?)。今年6月の「Dopamine Helldreams.」から約4ヶ月と短いスパンでのリリースである(更に本作発表後の11月18日にも新たなアルバム「TOKYO2001INLOVE」をリリースしている。すご)。音像はカオティックながら、どことなく統制された配置を感じさせた前作に対し、ハーシュなノイズがお構いなく暴れ散らかし、有機的なギターサウンドがフィーチャーされている本作は、凄く"バンド"っぽい。どことなく青臭い、やけっぱちなポジティビティを振り撒く#2「death song」なんかはもうほぼ銀杏BOYZのような気がするし、直線的な演奏(?)と耳が痛くなるほどに鋭いギターのトーンは、NUMBER GIRLとも重なる。
 2019年に再結成したNUMBER GIRLは、新譜をリリースすることなく再度解散する。もしかすると向井秀徳は、その鋭さを、様々なキャリアを積んだ彼が自身の手でアップデートすることの限界を悟っていたのかもしれない。その代わりに我々の目の前に今、NEUPINKの「melt yourself into the flesh of midnight」がある。PCの中、たった一人の冷凍都市。歌の代わりにノイズが歌う青春パンク。


situasion - amputasion
(EP, 2022.11.15)

 2020年結成、東京の6人組アイドルグループによるコンセプトミニアルバム。
 まず2点断っておきたい。このnoteはあくまで"良かった新譜"を紹介する目的で書いているので、良くないアルバムのことは記さない、つまり本作も音楽的に凄くカッコいい作品だということ。それと、自分はsituasionのライブを数度観たことがあるが、活動を詳しく追えているわけではなく、実際にどのようなグループ運営が行われているか、メンバーが自身の活動をどのように捉えているかについては把握できておらず、以下に続く内容はあくまで音源と数回観たライブで抱いた印象に過ぎないということ。という予防線をわざわざ張るくらいなので、ややめんどくさいことを書きます。
 1期BiSからアイドルシーンにハマった人間ながら / だからこそ2022年現在に思うのは、もうアイドルを"「大人」の「男」の遊び場"と捉えるのはやめにした方がいいんじゃないか? ということなんだけど(「大人」の「男」には当然オタクだけではなく演者以外の作り手も含まれる)、その10年代から続くあるアイドル観の、一つの極地がsituasionというグループであり、そして本作だと思う。もっとも、悪趣味なプロモーションや炎上商法を行なっているわけではないから、不快感や実害をもたらすわけではない。故にその一面は不可視化されているし、是非の判断を迫るものでもない。
 「切断」を意味する「amputation」をもじったタイトルと、四肢や臓物を宙吊りにしたグロテスクなアートワークは、散文的で時にナンセンスな歌詞を無邪気に歌い、カットアップされトラックの「素材」的に用いられる彼女達の声とリンクする。メンバーカラーをアナグラムして元来の意味を剥奪する/新たな意味を付与する各トラック名に象徴されるように、本作でメンバー達は意味やメッセージを主体的に発信する権利を剥奪されているように感じるのである。もしも今年5月にリリースされた「全少女運動」(その後開催されたワンマンライブの公演名でもある)が学生運動をモチーフとしたのがこうした"刈り取り"と結び付いていたとしたら、そのコンセプトの決定はやや軽薄ではあるものの、必然性に基づいたものであったのかもしれない。
 こうしてアイドルを素材や実験の場(あるいは単なる"状況"?)として取り扱うというsituasionの試みは、グループのサウンドプロデューサーである磯野涼や本作にて全曲の作編曲を手掛けた四市田雲豹の、(アイドルが個々に持つ文脈や個性故に)これまで発揮されなかった作家性を存分に引き出すことに成功している。昨年リリースの「I would prefer not to」と並び、本作はライブアイドルの可能性を拡張した、シーンの歴史に残るべき一作と言って良いだろう。
 一方で評価を難しくしているのは、この徹底した"状況"作りが、アイドル産業に対しての何らかの皮肉で行われているのか、それとも先鋭化したシーンでクリエイティビティを最大限増幅させるためのピュアな選択なのかが分かり得ないという点である。もっとも、situasionはまだ活動歴2年に満たない新鋭グループなのだから、その答えは今後の活動で明らかになるかもしれない(12/5に行われるワンマンライブのタイトルが「GATTAI」なのも意味深ですね)。


Stateside - Bitter Spring
(EP, 2022.11.8)

 8/29に初のライブを行ったばかりのカリフォルニア出身5人組によるデビューEP(Dreamboundでお馴染みオーストラリアの同名バンドとは別)。The Get Up KidsやSunny Day Real Estateを彷彿とさせる超王道90sEmo + 微かにチラつく鋭利なメタリックハードコアで、今後の活動にかなり期待を持てるバンド!
 僕が現行エモで最も注目しているベルギーのFeverchild然り、マスロック要素やオタクっぽさ(デスクトップ上のエモ)と無縁の、つまり10年代前後のエモリバイバルや5th wave Emoをスキップし90sをそのまま演ろうという潮流は確かにあり、これはむしろハードコアシーンと共鳴してる模様。Feverchildと同じくThe Coming Strife Recordsからリリースされたmemento.の00年代前後メタルコアリバイバルなEP「A Chorus of Distress」も同様だが、Y2Kがファッションとして消費される今このタイミングでオシャレじゃない懐古をしているアーティスト達は(音楽性は"陰"でも)めちゃ背筋が伸びてる。


twofold - XFORM trax
(Album, 2022.11.22)

 ジョージア州アトランタのプロデューサーによる2nd(?)。暴力的に歪んだキックに殴られ続けながら、多様なリズムパターンで踊らされる30分。様々な機械音をそのまま取り入れたユニークな音使いの中で、度々挿入されるシャッター音やフォーカス音が印象に残る。インダストリアル・ミュージックが産業革命への皮肉を背景にしているのならば、本作は、世界そのものが絶えず記録され再生され続けるスマホ・ネイティブ世代の新たなインダストリアルといえるかもしれない。ピントを合わせ写真を撮るように、アーティストは表現を作品に残し、変化の過程を刻み続ける。twofoldは本作のリリースにあたり、bandcampのページ上に「let's continue to transform」というメッセージを寄せている。


サニーデイ・サービス - DOKI DOKI
(Album, 2022.11.1)

 1992年東京にて結成の3人組による14th(!)。結成30周年を間近にしながら瑞々しすぎるくらいフレッシュな衝動をスパークさせた快作「いいね!」に続いて、軽やかなロックサウンドを軸にしつつ、Pixies風の#4「Goo」から異国情緒漂う#5「メキシコの花嫁」の流れに顕著なように、より肩の力を抜き、柔軟に多様な表情を見せる、ウェルメイドなギター・ポップ。
 「ひなびた中華屋」「海辺のレストラン」「ジュディのドーナツショップ」...本作で歌われる、様々な"場所"(本作の仮タイトルは「ペンギン・ホテル」だったという)。人と人とが交わる時、感情が動く時、詩が生まれる時、記憶と結び付く"場所"。そうして辿り着くエンディング「家を出ることの難しさ」は、コロナ禍を経て、"場所"の愛おしさをよく知った我々だからこそ、身に染みる名バラードだ。


零進法 - 0進法
(EP, 2022.11.2)

 恐らく東京の学生が流動的な形態でやっているプロジェクト...ということ以上はよくわからない、日本のアーティストによる1st EP。ランダムなようでコントロールされているのか、コントロールされているようでランダムなのか、よくわからないがただ破茶滅茶だということだけがわかる奇妙な打ち込みトラックと、何やら危ういことを歌うボーカロイドによるアヴァンポップ。物語もキャラクターもない「初音ミクの消失」(すいません、これは暴論です)。代代代に通ずるエレクトロ破天荒ポップスでもある。で、結局何が危ういんだ?と思って歌詞を読んでみると...「会話は無意味 今すぐやめよう」「長いものには巻かれよう」「聴き尽くそう流行りの音楽 全部リストに入れてしまおう」というアジテーションは、加速主義を迫っているようにも思える。最終トラックは「FAST FAST FAST」だし。そして、その視点を得ると、荒唐無稽なMIDIトラックが、シンギュラリティ後の世界のサウンドトラックにも聴こえてきて、怖っ!となる。見当違いだったらすみません。

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