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2022.12 良かった新譜

Autonoesis / Beyoncé / brakence / demxntia / florelle / LE SSERAFIM / LeeHyunJun / Strawberry Hospital


Autonoesis - Moon of Foul Magics
(Album, 2022.8.25)

 カナダはオンタリオ州トロントの詳細不明ブラックメタルプロジェクトによる2nd。表題曲でもある#2「Moon of Foul Magics」がとにかく素晴らしすぎる...今年聴いたメタル楽曲の中で一番良いかもしれない。メロブラのドス黒い疾走とテクデスの奇怪な数学的フレーズがコズミックな恐怖を煽りつつ、スラッシーなリフやメロデス、メタルコア的な音運びやキャッチーなコード進行で拳も掲げさせる濃密すぎる9分超だが、異常なまでに張り詰める緊張感を弛緩させる中盤のアトモスフィリックでジャジーなクリーンパートと、徐々にクライマックスへと詰め寄る猛烈なシュレッディングが楽曲にメリハリを生んでおり、全く飽きさせない。
 9曲1時間超え。後半はやや息切れ感もあるアルバムだが、禍々しい空気感は最後まで損なわれない。広漠な宇宙空間が、こちらを睨み付ける異形の怪物の眼のように見えてくるアートワークも良い。


Beyoncé - RENAISSANCE
(Album, 2022.7.29)

 テキサス州ヒューストン出身の世界的ディーヴァによる7th。
 先日、新海誠監督の最新作「すずめの戸締まり」を観に新宿ピカデリーに行きまして、そこで本編の前に流れていたTiffanyのCMで、本作に収録の「SUMMER RENAISSANCE」が流れていて、そういえばnoteで取り上げてなかったな、と思い出したわけです。
 黒人ゲイコミュニティーから生まれたハウスへの賛美を打ち出した本作。その制作には錚々たるミュージシャン達が参加しており、その中にはSkrillexやA.G.Cookといった非黒人のプロデューサーも。スムースに繋がれたトラックは優れたDJのプレイのようでもあるし、作編曲やサンプリングを通し時代も人種も超えた様々な音楽家達と交わるリスニング体験は、クラブの中をグラス片手に人とすれ違う時の感覚を思い出させる。パンデミックを経て、ダンスフロアがより多くの意味を持つようになったことを、改めて実感する。
 こういったアルバムを超ビッグスターである彼女がリリースすること、そしてその楽曲が超有名ブランドとタイアップすることの凄みを、ほとんど満席のシネコンで、超人気監督が日本全体が抱えるトラウマを掘り起こした映画の上映前に感じられたのは、なんだか奇妙なシンクロニシティを覚える出来事でした。


brakence - hypochondriac
(Album, 2022.12.2)

 オハイオ州コロンバス出身のソングライター・プロデューサーによる3rd。前作「punk2」(僕のオールタイムベストの1枚でもあります)は、過剰編集の時代のさらに先を捉え、編集と演奏の境界が揺らぐ瞬間に快を見出そうとしているところが優れていたけれど、本作において、そのクリエイティビティはもはや何と何がいかに融解しどこに至ろうとしているのかも判然としない(させない)超人技の域に達している。brakenceの輪郭が歪むアートワークと「診断されていない病気に勝手に怯える人」を意味するタイトルも示唆的だ。
 改めて、前作について整理したい。「punk2」においては、ウワモノは基本的にギターのアルペジオかストロークに限り、音数を極力抑え、シンプルなリズムワークを徹底、...という不文律的な"縛り"があった。その規則によって無駄なく整えられたトラックは、他のHyperpop作品などと比べてもレイヤーを捉えやすく、故にその偉大なる音楽的達成と、耳触りの良さ・わかりやすさをどちらも手にすることができたわけである。
 「hypochondriac」を聴いていると、先に挙げたルールの全てが、(時に思い出したようになぞられつつも、)作中でしばしば無視されることに気付くだろう。削ぎ落とされた「punk2」の余白に取って代わるのは、圧倒的な作り込みとアイデアの連打。装飾的なシンセも、ベースも、パーカッションも、自在に形を変え、次々に我々の眼前に現れる。
 彼には、自分に課していたルールを敢えて撤廃し、一歩踏み込む意志があったように感じられる。作品をソリッドに仕立て上げることが創造性を縛り付けることを、彼は自らの手で明確に拒否した。作品の世界観をコントロールすることよりも、想像力が生み出す世界を信じた(余談だが、これは文化系のにこやかな優男からややチャラついたロングヘアーの青年へとスタイルチェンジした彼のビジュアルイメージとも少なからず関係するような気もする)。
 現時点では正直前作の方が聴きやすくわかりやすいとは思うけど、それでももっとこの人を理解したいと思わせる不思議な魅力があるアルバム。聴くたびに新たな発見がある。


demxntia - psychosis
(Album, 2022.12.16)

 フロリダ州タンパのアーティストによる今年3枚目となる8thフル。前半がオルタナR&B〜エモラップ、後半がロック〜グランジ〜ニューメタルというA面/B面に分かれている。nothing,nowhere直系、日本からは(sic)boyやCVLTE(過去にコラボ経験あり)らも彷彿とさせる、パンク〜オルタナ影響下のエモラップ。#6「selfish(i wished you hated me)」や#8「castle in the sky, Pt. Ⅱ」といったピアノバラード曲もありつつ、#7「die in your arms」ではドリームポップ的な音像を取り入れるなど、前半は単なるエモラップともまた一味違う緩急を見せながら、後半では特定ジャンルに依拠せず、見事に彼の楽曲をバンドサウンドに翻訳している。これ、正直言うと、「ruiner」以降のnothing,nowhereにやって欲しかったことを全部この一枚で達成してくれてる感あるんだよね。聴けば聴くほどいいアルバム。


florelle - flying colours
(Album, 2022.11.4)

 3人組インターネットバンドによる2nd。ビットクラッシュ・ブレイクコア・ドリームポップ。その尖った切っ先を、ボヤけた音像の中に隠す。グチャグチャなのに同時に穏やかで美しくて素晴らしすぎる。メタル要素はないけどブラックゲイズ的な爆発もあって思わず恍惚。その混沌は最終トラック#11「untitled(time piece)」で極まる。HexDのその先に行こう。


LE SSERAFIM - ANTIFRAGILE
(EP, 2022.10.17)

 韓国の5人組ガールズグループによる2nd EP。たぶん、いや疑いなく僕の人生で一番夢中になっているK-POPグループで、表題曲「ANTIFRAGILE」は今年最も繰り返し聴いた曲(MVやパフォーマンス映像、TikTokなども含めて…)の一つです。
 Isabella Lovestoryも制作に参加した#2「ANTIFRAGILE」の強烈なレゲトンのビート&全パートフックありまくりのメロディーはもう文句なしとして、#3「Impurities」、#5「Good Parts (When the quality is bad but the I am)」(こちらはSalem Ileseが参加)はチルなサウンドで、全編に渡り洗練されたクリエイティブを発揮している。そんな中で、#4「No Celestial」のやや古臭いアリーナロック感のダサさが引っかかってたんだけど(ポップパンクリバイバルとも微妙にタイム感がズレてる気がするし)、このちょっと抜けた可愛らしさとFワード上等な弾け具合が、彼女達のクールに見えて実は親しみやすい佇まいと物凄くマッチしてるんだなあと、さまざまな活動を追っている内に気付きました。
 宮脇咲良さんを、僕はマジで尊敬しています。


LeeHyunJun - LOST IN TRANSLATION
(Album, 2022.9.30)

 韓国のラッパーによる2nd。インダストリアル・アンビエント・ヒップホップ。トラックは鋭利だが、ラップや歌唱には血が通った印象がある。ディスコミュニケーションのもどかしさと理解されない思いの心細さ。裸の寂しさと剥き出しの生々しさ。Kanye West「Yeezus」の系譜を感じさせるが、敢えてここは、Frank Ocean + Death Gripsとか表現してみたい。


Strawberry Hospital - Data.Viscera
(EP, 2022.1.2)

 テキサス州オースティンのプロデューサーによる3rd EP。リリース直後から今まで、一年中聴いてたような気がするけど、色々な理由で書くのが遅れました(「Strawberry Hospital lang:ja」でツイート検索すると、俺がこの音源に日本で2番目くらいの早さで言及しているということがわかる。まあ言及するのが早いから何?という話なんですが...)。
 4曲10分に満たない短い独白を繰り返し聴いていると、10年以上前からデスコアやDjentにまで片足突っ込むヘヴィネスとアンビエンスを掛け合わせ、ボーカロイドを無理やり歪ませた音声を乗せた音楽を「スクリーモ」と銘打っていたゆよゆっぺの、ある意味ハイパーポップを予見してたような先進性に改めて凄味を感じたりするんだけど(本作のトランスコア・ボカロサウンドの音像はまんまゆよゆっぺのそれだと思うし、実際本人も影響を受けているようである)、それでもゆよゆっぺには辿り着けなかった領域にStrawberry Hospitalは達しているとも思う。更なる過剰さへの志向は、ドリルンベースやブラックゲイズにまで至る。メンタルヘルスと対峙し、自傷的な感情に宿る美学までも鮮烈に刻む。その痛々しい青さや悪循環な内省を表現するために、もはや存在自体がノスタルジックでもある「ピコリーモ」(ってダサい呼称を敢えて使うけど)というジャンルが選択されていることにも、妙な説得力があって嬉しい。本当に面白い作品で素晴らしいアーティストだと思う。これからも色々な曲聴きたいです。

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