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おじいさんの「顔」

小学校低学年くらいの頃にあった出来事なのですが、今だに思い出すことがあります。

放課後に近所で友だちを遊んでいると、向こうの方でおじいさんが何やら、子供たちに話しかけています。

酔っ払っているのか、ずいぶんご機嫌な感じで、大きな笑い声。

子供たちも一緒になって大笑いしています。

追いかけっこのように駆け回り、時におどけたような表情をしているおじいさん。

その楽しそうな姿を友だちと遠目に見ながら、なんだろうねとクスクス笑っていたのですが、気になって気になって、徐々に近づいていきました。

しかし、しばらくすると、お巡りさんが来て、おじいさんに何やら話しかけます。

近所のおばさん達も出てきて、どんどん集まってきます。

私と友だちは少し離れたところで、その様子を見ていました。

大人たちに取り囲まれたおじいさんは、お巡りさんに何かボソボソと話しているようなのですが、何を言っているのか聞こえません。

やがて、戸惑いとも悲しみともつかない表情で、黙りこくってしまいました。

そして、ポンポンとお巡りさんに肩を叩かれながら、おじいさんは、どこかへ連れて行かれました。

一緒にはしゃいでいた子供たちの「なんで連れて行かれたんやろなぁ?」という声が聞こえました。

私は直感的に、おじいさんが変質者のような扱いを受けて、連れて行かれたのだろうと思いました。

そのおじいさんが本当に変質者だったのか、それとも大人が、そう断定して通報したのか、知る術はありません。

ただ私には、おじいさんの表情が、ただ遊んでいただけだ、と訴えているように見えました。

今ではすぐに声掛け事案となるので、こういうことはもう無いのかも知れません。

良いとか悪いとかではなく、何かの折にふと、時代の変わり目にあって、流れについていけない人の存在を感じる時があります。

そんな時に、あのおじいさんの、何とも言えない顔を思い出すことがあるのです。


まつりぺきん 雑文 随筆


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