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「サッポロ一番」についての考察

サンヨー食品の「サッポロ一番」というインスタント袋麺について、いろいろ思うところがあったので、ちょっと書いておこうと思います。

1.なぜ商品名が統一されていないのか?

今ではいろんな種類があるようですが、「サッポロ一番 しょうゆ味(1966)」(以下、<しょうゆ>)というのが、一番最初に発売されたもののようです。

その次に発売されたのが「サッポロ一番 みそラーメン(1968)」(以下、<みそ>)で、さらにその次に発売されたのが、「サッポロ一番 塩らーめん(1971)」(以下、<しお>)なのだそうです。

まず、<しょうゆ>は、「サッポロ一番」という商品名がデビューしたばかりの時なので、商品名に含まれる「サッポロ(札幌)」という地名が「ラーメン」を連想させ、パッケージのビジュアルと併せて「この商品はラーメンである」ということを伝えているのはわかります。

しかし、それだけでは「どんな味なのか? 何味なにか?」がわかりません。

実はもともと「サッポロ一番」だけが商品名だったようなのですが、恐らくそれだけでは味の想像がつきにくいという問題があったのではないかと推測できます。

札幌ラーメンと言えば、味噌味を連想される方が多いかも知れませんが、歴史を調べてみると、1960年頃までは醤油ラーメンが主流だったそうです。

そう考えると、「しょうゆ味」とわざわざ書いているのは、「これは醤油味のラーメンです」という宣言と、「札幌ラーメンと言えば味噌味の方を連想する方もおられるかも知れませんが、これは醤油味の方です」という注意喚起の意味が含まれているのかもしれません。

いずれにせよ、ここまでは理解できます。

では、なぜ<みそ>は、「サッポロ一番 みそ味」ではなく、「サッポロ一番 みそラーメン」となったのでしょうか?

私は、「サッポロ一番」という商品名は<しょうゆ>のみに使用したいという強いこだわりがあったのではないかと考えています。

群馬県の会社であるサンヨー食品が、わざわざ商品名に「サッポロ(札幌)一番」と付けたのは、当時の専務が札幌ラーメンに感銘を受けたことに由来している、という話があります。

この時に専務が感銘を受けたは、時代的に考えても、醤油味の札幌ラーメンだった可能性が高いと考えられるからです。

一方、「サッポロ一番」がヒットしている中、新商品を投入するにあたり、全く新しい商品名を付けるよりも、「サッポロ一番」シリーズとして売り出した方が認知させやすいという意見もあったと思われます。

「サッポロ一番」は醤油味しか認めないという意見と、認知度の高い「サッポロ一番」という名前を利用したいという意見がぶつかった結果、妥協案として、「『サッポロ一番』自体の味違いの存在は認められないけど、『サッポロ一番』シリーズの『別のラーメン商品』という形ならOK」という話になって、「サッポロ一番 みそラーメン」となったのではないかと、個人的には考えています。

これが正しいとすれば、次の商品として「サッポロ一番 塩らーめん」となるのも、理解できます。

ただ、ここで新たな問題が発生します。

2.なぜ漢字・ひらがな・カタカナが混在するのか?

<みそ>は商品名が「サッポロ一番 『みそ』『ラーメン』」なのに、<しお>は「サッポロ一番 『塩』『らーめん』」です。

2-1.味の表記

まず、味の部分から見てみましょう。

最初に「みそ」とひらがなにしたのであれば、「しお」とするべきという意見はあったと思います。

それなのに漢字で「塩」となっているのは、なぜでしょうか?

ここは多少強引なのですが、「しおラーメン」だと「し」だけ見て「しょうゆラーメン」と勘違いする顧客がいるかもしれないので、わざわざ漢字にしたと考えられます。

1973年に大規模小売店舗法(略称「大店法」。1974年施行)が制定され、本格的にスーパーマーケットの時代に突入していきますが、それまでは、インスタント麺も、街の乾物屋や雑貨屋などで売られていました。

個人商店なので陳列スペースも限られており、どのように陳列されるかわかりません。

商品名がハッキリと見えないような陳列も想定され、パッケージのビジュアルと「し」だけ見て、顧客が勝手に「しょうゆ味のラーメン」と勘違いして買っていく可能性は充分に考えられます。

「醤油味を買ったつもりだけど、なんか違うな」となれば、商品の評価は下がります。

また、今ではSNSもあり、消費者保護という考え方もありますが、当時は仮に思っていたものと違う味を買ってしまったとしても、文句を言う術は今ほど開かれておらず、仕方なく食べていたことでしょう。

いずれにせよ、商品の評価にとって良い影響は与えません。

そこで、<しょうゆ>と間違えないよう、明確に違う「塩」という漢字にしたのではないかというのが私の考えです。

2-2.ラーメンの表記

続いて、「ラーメン」なのか「らーめん」なのか、についてです。

<みそ>の「みそラーメン」という表記は、「みそ」部分で、「味噌味である」という情報を伝えつつ、ひらがな表記の「みそ」による、和の素朴で親しみやすい印象を与えていると考えられます。

その後ろのカタカナ表記の「ラーメン」が、外来語らしい異国風情を放っており、「みそ」という日本文化と「ラーメン」という海外文化の融合を狙ったようなネーミングとして、工夫されているようにもにも思えます。

一方、<しお>は、味の「しお」の部分を「塩」と漢字にしたため、見た目の印象が固くなり、ここにカタカナの「ラーメン」がくっ付くと、鋭角的で、さらに硬質なイメージが強くなると考えたのではないかと推測しています。

「塩ラーメン」より「塩らーめん」の方が親しみやすさを感じませんか?

これも多少強引な解釈だとはわかっていますが、サンヨー食品内でも、これに近いルールで命名していると考えられる証拠があります。

2-3.説の信憑性

後に発売されている「サッポロ一番 ごま味ラーメン」「サッポロ一番 塩とんこつらーめん」を見て下さい。

「サッポロ一番 『ごま味』『ラーメン』」では、まず味の表記が「ごま味」なのですが、パッケージでは「ごま」が大きくなっています。

つまり、味の表記をひらがなにした<みそ>パターンであるとわかります。

そうなると、続くラーメンの表記は必然的にカタカナとなるわけです。

一方、「サッポロ一番 『塩とんこつ』『らーめん』」では、「ごま味」ほど大きさの差はないのですが、パッケージでは「とんこつ」よりもやはり「塩」が大きめで、しかもわざわざ「塩」の漢字だけ、目立つように<しお>のそれと同じ色に変えてあります。

つまり、味の表記を漢字にした<しお>パターンであるとわかります。

こちらも同様に、続くラーメンの表記は必然的にひらがなとなります。

さらにもう一つ、面白い事実があります。

「サッポロ一番 ごま味ラーメン」のパッケージには、「ごま味しょうゆラーメン」と書かれています。

よくよく考えると、「ごま味」のラーメンと言われても、しゃぶしゃぶの胡麻ダレのような胡麻そのものの味ではないので、「ごま風味」というニュアンスが強く、正直、何味のラーメンかはわかりません。

つまり、商品名だけでは伝わらない、「ごま風味だけれど、味としては実は醤油味である」ということを、パッケージデザインが補完して伝えているのです。

ここで思い出していただきたいのが、オリジナルの<しょうゆ>と間違わないように、<しお>は、味の表記を「塩」としたのではないかという私の説です。

醤油味であるという情報は、オリジナルの<しょうゆ>でも「サッポロ一番 ごま味ラーメン」でも、ひらがな表記の「しょうゆ」で統一しており、「塩」と一線を画していることがわかります。

つまり、「サッポロ一番」シリーズの味表記で「し」が見えた時点で、それはオリジナルの<しょうゆ>だろうと、ごま味ラーメンだろうと、「しょうゆ」味の「し」であり、「しお」の「し」ではない、というサンヨー食品の強い意志が感じられるのです。

3.統一されていないのは商品名だけではないのか?

最後に、薬味と言うかおまけと言うか、パッケージに記載されている添付品にも注目してみましょう。

<しょうゆ>は「特製スパイス付き」、<みそ>は「七味スパイス付」、
<しお>は「切り胡麻つき」となっています。

それぞれ添付品が異なるのは良いのですが、<しょうゆ>は「付き(=漢字表記・送り仮名あり)」、<みそ>は「付(=漢字表記・送り仮名なし)」、<しお>は「つき(=ひらがな表記)」なのです。

もうここまで来ると、今までの推測や説がどうでも良くなり、「サンヨー食品という会社は表記ゆれを気にしない、独特のセンスの会社なんだなぁ」というのが、最も無理のない考え方のような気がします。

さらに<しお>の「切り胡麻つき」だけ、筆で書いたような妙に手書き風の
フォントで、添付品の説明なのに、ロゴみたいになっており、表記だけでなく、デザインのセンスも独特というのが正解かもしれません。

ちなみに、<しょうゆ>のパッケージの右上には、星のようなものが描かれた青い矢印があります。

これは、パッケージの中に「おや?」と思う違和感を仕込んでおくことで、目立つという前社長のアイデアだという説があるそうです。

統一性のない商品名や表記、デザインにひっかかり、こんな長文を書いてしまった私は、まんまとサンヨー食品の作戦に引っかかったということになります。

こんなに妄想を楽しむ時間を与えてくれた「サッポロ一番」よ、ありがとう。この後、美味しくいただきます。


まつりぺきん 雑文 随筆

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