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答えは自然の中にある。北杜市×THE NORTH FACE 登山道整備イベント

※こちらの記事は2021年12月5日公開のブログから移行したものです。


11月のよく晴れた週末、山梨県北杜市とTHE NORTH FACEの包括連携事業「Trail Maintenance at HOKUTO」に参加した。

山好きでも普段なかなか関わる機会がない登山道整備を体験できるイベント。それだけでも心惹かれるけれど、さらに興味を持つきっかけになったのは登山道整備の方法だった。このイベントでは、近自然工法という「自然に近づける」「自然に近い方法を使う」整備を学べるらしい。講師は北海道の大雪山・山守隊の代表、岡崎哲三さん。

自然に近い工法・・・自然界の構造物を理解し、その形を再現すること
自然に近づける工法・・・施工後、生態系が復元し、自然が再生していくこと

大雪山・山守隊 公式サイト

これまで私は、登山道は整備したその日が一番「いい」状態であり、その後は年月とともに荒廃していく一方だと思っていた。でも自然を見て自然に真似る近自然工法では、道は整備したその日が完成形でもなければ、もっとも強固な状態というわけでもない。整備した道のまわりに植物が生え、壊れた生態系が少しずつ蘇ることを目指し、自然に沿った施工を行う。成長した植物の根は、登山道周辺の土壌をつかみ土砂の流出を防ぐ。答え合わせができるのは、季節がひと巡りするころ。

近自然工法の登山道整備の目的は、侵食を止め、生態系を復元すること。初めて聞いたときは、そんなことができるのかと驚いた。「登山道整備=人が歩きやすい道をつくること」と思っていたけど、近自然工法の登山道整備は、目先だけではない、もう少し先の未来まで見据えているようだった。

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登山道の荒廃は、自然的要因と人的要因が組み合わさり、加速する。

人が歩くと道ができる。人の通り道は水の通り道にもなる。大雨が降ると土壌が流され、放置すれば侵食はさらに進む。やがて道がU字やV字状に削られていく。登山者は歩きにくい荒れた登山道を避け、両脇の植物帯を歩く。往きかう登山者の踏圧により、登山道脇の植生が破壊される。表土が削れ侵食のスピードが加速する。もともと多様な植生があり緑豊かだった場所が、どんどん裸地になり荒れていく。

自分が山に入ることで大好きな自然を壊してしまっているのではないかというジレンマを感じながらも、ずっと見ないふりをしてきた。遠くの雄大な景色に感動しているその足元では、自らの足によって植生を破壊しているなんて皮肉な話だ。

好奇心も未来に対する前向きな希望もたしかにあったけど、参加を決めたのは、自然を利用するばかりで何も返せていないことへの罪悪感からだったのかもしれない。

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この日の登山道整備のイベントで手がけたのは、急登を安全に登り下りするための木のステップづくりだった。

切り出した丸太は短いものでも50〜60kgほどの重さ。100mに満たない距離でも人力で運ぶのは思っていた以上に大変な作業だ。すぐに息が上がり腕がパンパンに張る。山の外気に晒されさっきまであんなに冷えていた身体が、一気に火照る。1本目の丸太を運び終えるとすぐ、着込んでいたジャケットとフリースを脱いで息を整えた。

丈夫で長持ちする道をつくるため、まずは自然をよく見る。「動いているものの中で動かないものを見つける」岡崎さんの言葉が印象的だった。整備した木や石のステップがぐらいついていたら危ないし、時間と労力をかけてつくった道が大雨が降るたびに崩れてしまっては困る。水はうまいこと外に逃がしたいけれど、土壌の流出は食い止めたい。生えている木や地形、簡単には動かないものを観察して、施工のヒントを探す。

「この木の根っこで固定できるかな」「反対側は法面(のりめん)に差し込めそうだね」「少し斜めに置いた方が歩きやすそう」岡崎さんや甲斐駒ヶ岳七丈小屋の花谷さんに教えてもらいながら、参加者もアイディアを出し合って道をつくっていく。

自然界には平行等間隔のものはない。それには理由があるはずだ。雨が降ったときの水の流れをイメージしながら、実際にその道を上り下りしながら、どんな角度で丸太を置いていくか考える。

どうすれば固定できるか、美しい道になるか、緑が戻ってきてくれるか。想像しながら手を動かす、試行錯誤の時間。

一見するとどこに手を加えたかわからない道が、施工後の理想の形だ。「なんかダサいな」は感じるけど、「どうやったら、かっこよさと機能性を両立できるか」は簡単には見えてこない。「美しい」や「かっこいい」道をつくるには感性が必要。それを実行するための技術も必要。岡崎さんが「ぜひ『かっこよさ』も目指して施工してください」と言ってくれたのは嬉しかった。自分よりも後の世代の人たちに、この山やこの道を誇りに思ってほしいから。

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たった1日だったけど、参加できて本当に良かった。数時間関わっただけの登山道に、こんなに愛着を感じるようになるとは思わなかった。これからは山道を歩くときの目線も変わりそうだ。「山が好き」「何かしたい」共通の思いを持つ人たちと一緒に作業したことが、なにより楽しくて、こんな山との関わり方もあるのだと教えてもらった。

今回の登山道整備のイベントでは、工具から資材の手配まで全てお膳立てされた状態で道直しを「体験」させてもらった。北杜市の職員の方々、THE NORTH FACEの方々、企画してくださった七丈小屋の花谷さん、そして大雪山・山守隊の岡崎さん、下條さん、貴重な機会をいただきありがとうございました。

思いがけず出会えた近自然工法という考え方。それはきっと、未来を生きる人たちが眺める豊かな風景に繋がっている。一度きりのイベントで終わらせないために、今後私はどんな関わり方できるだろう。


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