オムレツを切りわける
朝食のオムレツ
数千年横たわってきたように
隠している
生まれを
名前を
性別を
錆びた武器を
前回ナイフを入れたのは誰だったか
記録は残してあるか
卵を割ったのは僧侶
フライパンを握ったのは
白いほそい手
その夜から
僧侶は歩く時
揺れている
昨夜
砂浜に埋められた亀の
言葉になる前の
ぬるぬるした地球
前回口にふくみ
地表の襞に隠された伝言を
読んだのは
誰だったか
記憶しているのは
雲から垂れている
舌
テーブルに
雨がこまかく
霧のように降る
アフリカの国境線
上海の居留地にのこるあしあと
グラスのなかの
わたしの頭蓋骨
硬い乾パンを割る
地球のうすい風船のように
ナイフで切る
不規則なパズル
切りわけた指のうごき
そこに人類の進歩があるだろうか
食べる口は
軍隊の歩みのように
リズミカル
時に停止する
電池が切れた玩具のように
隣りの心の
震えてる音は聞こえない
食後
シャワーそして純白のパック
そして言う
人類はうつくしい
僧侶が口にいれる
オリーブ色の眼球
かれは必死に
思いだす
オムレツの味
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?