見出し画像

Tomo Poetry、握っている。

ポケットでゆびさきは
まさぐる
ときにまた遊びながら
きみの
親指のようなかなしみ
紙幣に残る涙のにおい
詩集の
きみの体温のようなしたしみ
そのページをめくるのは
言葉を知らない
蜥蜴のまるい足先

ないではないか
戸籍抄本や
サーティワンアイスクリームポイントカード

きみはだれなんだ?
わたしの存在の基礎になるものを問うように
かれは問う
銀行マンが通帳を要求するように
ドアマンが社員証をと指で示すように
区役所がながいリストを見せるように

わたしは
妻の死亡届けと
まだ生きているわたしの先付死亡届けを
提出しようとしている

もう生きている意味がないと判断しているのですね

わたしの宇宙は混沌にもどり
地球はキャタピラの模様で飾られる

それなら向こうの
サーティワンアイスクリームでおねがいしてください
ただし 届けることを怠らないように

きみがのこすものはない
届け出書の控え
からっぽのアパート
そして 左手のなかの
キャッシュカード

その残高をきみは知らない
織田信長が残したものと
明智光秀が残したものは
クリームシチューと
ビーフシチューのようだ
銀河系が残す残高も知らない

何が残っているか
きみは
キャッシュカードを太陽に当てる
ポケットの石川啄木詩集をすかしてみる

特殊な曲線をえがいている文字
ソバカスのような
銀行の支店番号
刺青のような苔
砕けた文字

きみは左手で握っているものを曲げ
歩きながら千切る

返されたラブレターを
千切ったように

きみは何も握るものがない
物干しでシャツをたたく時
刺繍された名前をみる
それが
きみのものだ
きみが愛されていることを
示すものだ

色褪せた糸が
切れていく
きみは肉体が
すきとおっていくのに
気づいている

きみの手は光を握っている

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?