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まだ明るさのなか

「明るさは滅びの姿であろうか、人も家も、暗いうちはまだ滅亡せぬ。」 太宰治『 右大臣実朝』 笑ってはいけない 夜明け前に まだ薄暗いこの世 そこにいるのだから 明るさは すでに過ぎ去った あるいは まもなく再び戸口から入ってくる そうだろうか おびただしい快楽と おびただしい河岸の死と 地下鉄でくぐる 不安の 動悸 兵士は昼間に姿を整える 土に沈められる姿勢に 二十四色の季節を纏い 新しい名で埋葬されるために 将軍は死を背負う ローマ法皇の肩の 過去の汚れ 天皇がベッドから足をおろす 砕けた道 それらの絵画を ピンクの花弁や未来でコラージュしてはいけない ハンカチでキャンバスの汚れを覆ってはいけない 普遍を見るために 埃となる普遍 それを見さだめるために 明るさは滅び 言葉は滅びのうえで 闇のなかで かなしむ子どもに引き継がれる 扉のそとはまだ暗い 暗さのなかを走る 生きる馬の音 生きる呼吸 そして 朝焼けがながれる安堵は 死に近い 滅びるであろうか 暗いうちはまだ滅びはしない 夜明け前に 静寂で満ちた肉体で出発する 今日は水 足もとは明るいが 見えない朝 靴には 昨日の昼が 残っている 闇になりかけて

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