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TomoPoetry、いちご大福

いちご大福が好きだ
連れ合いも、友人も、親戚も、初恋のひとも
ヒットラーも、岸信介も、サンドウィッチマンも、
食べる時は孤独の壁に囲まれる
甘さに
斜めになる口を隠すために

きみは口に押し込む
いちごときみの忘却と
銀行通帳に並ぶ
数値のために
わたしの身体のためだと
しろい骨と
ブルーの海底が
モーニングテーブルにならぶ

まっしろい球体を切ると
なかには
きみのたいせつな記憶のような
真っ赤ないちご
まもなく消える地球のような
きみの脳のような
たくさんの物語りのような
いちご

誰も食べることはできないだろう
誰も指を立てることはできないだろう
みじかい生命の始まりのような
永遠の死が凝縮したような
ひとの
生きる意味が
時の計画で染められたような
いちご大福

餡子はすでに
だれかの胃に入っている
いちごは
一世紀前の桜の味がする
いまはいないひとびとの味

いちごが育っているのを見たことがないから
命が見えない
と 連れ合いが言う
ならんだ裸のいちご
首を垂れて
沈黙したいちご
長いいちごの列
その先に
線路と焼却炉がある
口からいちごをそっと戻す
ひとの足跡がない
星の向こう側の
緑の光に


できたら何も食べずに生きていきたい

深夜もうひとりのわたしは
右足を齧り
連れ合いの足を齧り
遠い国を走った豚の足跡をかきあつめ
わたしの記憶のなかの
深い時間の底をかき回す
探りあてたいちごを
一度噛む
わたしは
うすいブルーの肉体になり
フィルムが燃えるまで観る

朝 連れ合いが責める
写真の少女の眼の鋭さで
あなたの口に
どこかの世界の餡子がついている
スーパーのプライスも
だれからもらったの

死の苦味があるいちご
わたしはしばらく天井を見ている
わたしは食べたのだろうか

となりで連れ合いが
真っ赤な星をつまんで
いちご大福を
口に入れる

わたしのものでない口のまわりに
宇宙が収縮したり膨張したり
餡子があふれ
とおい星雲のように
生まれたばかりのように
同時に 最後の化粧のように
さらさらと
寝床に降る
しろいこな

のどにつまらないように
一日を
人類の歴史をのみこむ

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