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TomoPoetry、かなしみのひとかけら。

五百年磨かれたナイフが
スペインのハムを
うすく
スライスする
嵐で裂けた
帆のように
切ること
割くこと
千切ること
存在証明書を破るように
危険なことだ
裁断した過去は
クリームソースをかけて
フォークではこぶ
火の窯へ
宣告するのは
飢えた祖先だ
子孫を
スライスする

地球儀を解体する鋏で
ずわい蟹の脚を
ほそく
割いていく
民族が
生き抜いていく道の
細さに
暗さに
湿り気に
干からびたいのちに
人類の歴史書の一章のように
保存する
それはいのちに関わることだ
現在
毎日過去に
トマトのように皮を剥き
潰して
缶に詰めているのは
わたしたちの未来である
それを煮詰めて
缶の数のみを
記録するのは
スーツを着た
死刑執行人だ
裸の果実を
種まま
潰している

あなたは赤いトマトをふたつに切る
口に入れる
眼は充血し
あなたは
あなたの代わりにトマトになったひとを
思いだす

パンと赤葡萄酒
それらもまた
その耳
焼かれ
裂かれた皮
すべての言葉を
一気に
吐きだす喉
それらは
あなたが忘れた舞台俳優
入り口で
チケットを受け取った
一世紀前の
少年
そのポケットで
わたしの身分証明書の
破片が腐敗している

わたしは食後
腐りかけたわたしの名前を
明らかにしなければならない
既に落ち葉といっしょに
荒地に
埋められた名前を

食べるわたしは
すでに人間ではない
食べられるあなたも
すでに死者ではない
生も死も
わたしたちのものではなかった
それに気づく
かなしみを
ひとかけら
それをはさんで
わたしたちは乾杯する
今日の一日
人間でなく
死者でもない
わたしたちが
歩きつづけ
小さな夜のなかに
転がれることを願って

きみは
なにかになりたかった 
きみ以外のなにかに
なにかをなしたかった 
この地上にないなにかを
違うだろうか

今夜も 
わたしたちはナイフを動かす
夜にたどり着いたことを
感謝しつつ
かなしみに溢れながら
たがいのからだを切りながら
たがいの血を流しながら
わたしたちは
地球のかけらを
宇宙のひとかけらを
噛み
知らないことを
うけいれる

赤ワインで全身を満たして
帰り道 
あなたは訊く 
誰にでもなく
あなた自身に
この傷をいやすのはだれだろう
今夜 
夜の世界で
みんなが尋ねる
この傷をいやすのはだれだろう

パンをひとかけら
自分から引き裂き
赤葡萄酒を一杯
自分から絞り
わたしはわたしを
味わう
そのひとかけらと
一杯を
傷ついたまま
のみこむ
わたしのかなしみ
そのひとかけら

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