Tomo Poetry、林檎をかじったあとに。
誰のもの
空は?
きみは返事を待たずに
まっすぐに上っていった
天にぶらさがったまま
影を
西から東へゆらす
忘れものがあるように
朝やけの空に
きみが揺らいでいる
身体はほそくなっている
毎晩落ちてくる
きみの型紙を
写しとった
一日分の空
なんども洗った
白いシーツと
白い頁の歴史書のうえに
かさなり積もる
表紙をひらくと
あいだに夢を空に忘れてきたわたしが
すきとおって挟まっている
現在の輪郭
黒塗りの過去
朝 まだ星が水底に沈んでいるころ
すきとおった輪郭を
踏みはずさないように
外出する
まだ経験がたりない
過去をふくらまし
暖かいか冷たいかわからない道に
存在の輪郭を
ゴムのようにひっぱりあるく
忘れたものを探して
わたしが歩んだことがない空を
わたしの足はさがす
わたしの肉体のなかの宇宙に
わたしの言葉を発する
そこはあたらしいか
広がりつつあるか
時間は少しずつ
凍っていく
青いグラスのなか
呼気が凍るように
グラスから
青い水を滴らす
眠りからとびだすスプーンで
かきまわすプリン
のような宇宙
時間の器をかきまわす
今朝は
冷たいスープを掬う
窓の外は
傷ついた手がいっぱいの空
きみに触れようと
天に伸びて
震えている
間をぬって鳥が飛び
傷だらけになる
いつか
透明な鳥が飛ぶだろう
そのとき
過去のかなしみを思いだしてよい
翌日には
わたしたちは輪郭のない鳥
空は鳥になり
きみを
揺すり
書籍が解かれ
時間がながれる
音は
林檎をかじったあとの
後悔のような
さあ わたしたちも
出発のようだ
わたしたちを
見ることはできないだろう
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