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Tomo Poetry、きみは生きるだろう、春風のように。

あなたは生きる
十年あるいは二十年 あるいは
三日か三時間
マネキンの群れのなか
焼け落ちた映画館の記憶
海が溢れるベッド
靴音響く下水道
回転しつづける銀河の底
割れた万華鏡のなか
あなたは生きるだろう

首に巻いた快楽
ポンプで押しあげる苦痛
星が胸のまわりをめぐるのを
呆然と見る
あなたは疑問に思う
どうして快楽そのものでなく
スカーフなのか
どうして苦痛そのものでなく
寒流と暖流の海図なのか
どうして宇宙そのものでなく
ブランドものの
下着なのか

春の夜明け
宇宙が色を海に滴らすころ
スカーフが凍えながら揺れるころ
溶岩が
どこかで吹き上げるころ
白い手が
あなたの息をとめるころ
あなたは死を
抱きしめる
銀の肉体を
ピンクに変えるほど
キスをして
三百回あるいは二万回目の
キス

江戸川の菜の花の数
アフガニテタンの紅白の芥子の数
あなたが通う地下鉄の
ホームが振動する数
あなたの喜びの鼓動の数
死を覚悟するときの
呼吸の数
このまま死んでいいと呟くときの
ながれる雲の数

あと何年濡れるだろう
春の雨に
欲望と
かなしみと
赤い雨
どこかで流された血がふっている

あと何度言うだろう
愛していると
舌のうえのアイスクリーム
甘い記憶と
渇いた季節と
銀の河
地上の隠れた快楽が空にひろがる

言葉と思いのあいだを
風が吹いていく
濡れているものに
乾き剥がれるものに
風が吹いてくる
はるかの星雲の
回転によって
あなたに
生きていることを知らせる
春の風


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