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あたらしく生まれるのは

生まれたのは 泡の岩礁 シャンプーのような 青いサボテン ワイングラスの少女 豚の陶器や あふれている臓器 からからガラスが 風に鳴る あれは 捨てた童話の頁から吹いてくる冬の風 頬を濡らすのは 時が湿っているから ひとびとは立ちつくす 凍ったまま 次の一歩をおろせない 白い手の波 跳ねる白と黒の鍵盤 遠い国の墓地 額縁に名前はない かさかさと 過ぎていく風 鳴っているのは記憶の痛み 薄れゆくフィルム あれは夜の星に 記憶が吹いているから 燃えているのは 街そして空 ひとびとの 絶望 雲におおわれる 水の星 凍った魂 棺を埋める白いバラ 卒倒する人類の 歴史の泡 空は溜息に満たされる 何も描かれていない地図のような 困惑する旅人の 残した足跡 旅行記に行き着く先がないように あれは 物語が終わったときのざわめき 空は青い剣 切り傷の列 歌が聞こえたら しばらく眠る ある夜 わたしたちは足首の黒子にするように 黒い大地の窪みに 激しく接吻する 風がこおり ひとは青く透きとおる 空が割れて 湿った叫びが ひびきわたる あたらしいいのちが生まれる 過去をもたない 歩みのために 立ちあがる

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