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TomoPoetry、まだ待ってみるか、しばらく。

もう何年待っただろう
朝の
フレンチトースト
数着のスーツ
棺を釘打ち
骨を集め
マッチを擦って
思い出す
かれは
何を楽しみに
あの地下室で生きていたのか
かのじょは
何を望みつつ
あの工場で死を待っていたか
大切な質問の
答えを
聞いたことがない
大切な質問を
思い出すことがない
食べること
寝ること
抱くこと
稼ぐこと
死者を儀礼とおり
送ること
深夜眼が覚める時
ふと思い出す
キャベツで巻くのは
何の肉にするか
それよりも
大切なことがある
忘れてしまったあれは
何だったか

ある時
わたしは自分が
何を楽しみに一日を過ごすか
何を望みに
生きつづけるか
知らないことに気づく
ロールキャベツのレシピを
調べなくては
と思いだすように

しばらくすると
わたしは
いつものフレンチトーストを
食べている
外には
鉄条網
奴隷市場の鐘
奴隷狩りの
ダークスーツの男たち
まだわたしの窓に
石は投げないようだ

そう わたしは
何を望みに生きていくのかを
考えようとしていた
ところが
フレンチトーストに
バナナをのせようか
パイナップルにしようか
チョコレートクリームにしようか
悩んで
何か大切なことを
考えていたことを忘れてしまった

バナナフレンチトーストより
良きものは現れない
存在しないものは
現れることはない
鳩は
飛べなくなると
海に潜る
理想は
実現できなかなると
修飾語のカタログになる
目の前には
銃殺広場
人身売買する公務員
鳥といっしょに
望みをなくした子を
埋立地の
底に置く
ひと

たしかにあれもひとだ
死に縛るのも
死に縛られるのも
ひと

わたしたちは
ひとに望みをもつことができるだろうか
鉄条網のなかで
悩みつづけて長い

泣かない方がいい
期待しない方がいい
歴史書を振ると
骨粉が落ちる
花粉のように
またひとを
果実のように
捥ぐ

今日
なされる偽り
それより良きものは生まれない
風が残す香りが
記憶と苦痛以外のものをもっているとしたら
書かれることがない
触れることができない
人類の夢
無意識を
伝わる夢
夢からさめるだろうか

フレンチトーストにナイフを入れながら
鉄条網を
揺らす風が
白いのを見ながら
わたしは
呟く
まだ待ってみるか
あとしばらく

蝶が
朝食の皿から
飛びたつかもしれない

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